基礎生化学
Basic Biochemistry
原 孝之
Takayuki Hara
1.一般教育目標(General Instructional Objective :GIO)
生化学は生体の構造と機能について、分子レベルで理解することを目的とする学問であり、将来、管理栄養士として栄養指導を通じて活躍する際に、その医学的基礎となるものである。とくに、3大栄養素の蛋白質、糖質、脂質の化学的理解とそれらの代謝と相互作用の理解は、栄養学の基本をなすものである。また、これらの栄養素の代謝を司る酵素蛋白質の理解とその遺伝子であるDNAとの関連を理解することも重要である。上記の下線を付した事柄をおおまかに理解でき、ひとりひとりがその意味を自ら説明し、要約できるような能力を養う。
個別行動目標(Specific Behavioral Objective :SBO)
1. 糖質(単糖、二糖類、多糖類)の構造を理解し、その生理的機能との関連について要約できること。
2. 脂質(脂肪酸、中性脂肪、リン脂質、糖脂質、コレステロール、リポ蛋白質など)の構造を理解し、その生理的機能との関連について要約できること。
3. 蛋白質を構成するアミノ酸の構造と蛋白質の1〜4次構造を理解し、その生理的機能との関連につ
いて要約できること。
4.核酸の構成成分の構造やDNA, RNAの構造を理解し、その生理的機能との関連について要約できる
こと。
5. 酵素の一般的性質、酵素の分類、補酵素について理解し、酵素の名前や酵素の構造と機能の関連について興味をもち、その数を増やしていくような態度を身につける。
6. 代謝とエネルギー獲得の機構を解糖系、TCAサイクル、電子伝達系、β酸化系などの代謝を通して理解する。
7. 糖質、脂質、蛋白質の代謝について、その代謝経路を理解し、三大栄養素の代謝の相互関係について説明できる。
3.授業計画 項目<キーワード>
1糖質の化学 <単糖の構造D,L-の区別、α、β-の区別、二糖類の構造、糖の還元性>
2糖質の化学 <多糖類の構造、デンプン、グリコーゲン、セルロース、糖の誘導体>
3脂質の化学と機能 <脂肪酸、中性脂肪、リン脂質、糖脂質、コレステロール、リポ蛋白質>
4脂質の化学と機能 <上記の脂質の機能>
5蛋白質の化学と機能 <アミノ酸の構造 20種のアミノ酸の構造と性質>
6蛋白質の化学と機能 <蛋白質の1〜4次構造>
7核酸の化学と機能 <核酸の構成成分、DNA, RNAの構造と機能、核酸の合成と代謝>5/21,5/23
8核酸の化学と機能 <遺伝子工学>5/28,5/30
9酵素 <酵素の一般的性質、補酵素、酵素の分類> タンパク質までの試験実施 6/11,6/13
10代謝とエネルギー獲得 <生体酸化、解糖系、TCAサイクル、電子伝達系>6/18,6/20
11糖質の代謝と栄養 <糖質の消化と吸収、グルコースの代謝、糖新生、糖類の栄養的特徴>7/2,7/4
12脂質の代謝と栄養 <脂質の代謝 脂肪酸合成、β酸化、コレステロール、胆汁酸の合成>7/2,7/4
13蛋白質の代謝と栄養 <蛋白質の栄養学的意義、消化と吸収、代謝。>7/9,7/11
14蛋白質の代謝と栄養 <アミノ酸の代謝>7/9,7/11
15三大栄養素の代謝の相互関係 <代謝調節、三大栄養素の相互関係>補講?
4.評価方法
筆記試験による。単元毎に小テストを行い、成績に加味する。この試験用紙だけは持ち込んでよい。緊張感をもって勉学を持続することが習得に大切である。
5.テキスト及び参考書
テキスト:新エスカ21生化学、林伸一ら著、同文書院 ヒトの生化学(講談社サイエンテイフィク)は栄養生化学で使うので前期に購入することをお勧めする。
参考書:レーニンジャー生化学、ハーパー生化学、コーン・スタンプ生化学など多数
1.糖質の化学 4/9/02(N。「)4/11/02(N氤)
予習項目
基礎生化学では、まず生体成分をつくる物質の1つ1つについて化学的に学ばなければなりません。私は管理栄養士をめざす人には糖質の化学から入るのがよいと思っています。その理由は糖質は摂取エネルギー比率の60〜65%を占めていて、一番大事なものと思うからです。
糖質とは?
糖質はあまりこれまで聞き慣れない人も多いでしょう。炭水化物を使う人もいます。しかし、管理栄養士になる人は糖質という言葉を使って下さい。以下第一回目の講義の概要を列挙します。
炭水化物 (CH2O)n 炭素が水加された物
糖質も同じだが、例外がある。だから炭水化物を含めて大きく糖質と呼ぶようになった。
単糖
単糖の炭素数 3〜7 命名には語尾に-ose(オース)をつける
1モノ(mono)
2ジ (di)
3 トリ(tri) トリオース
4 テトラ(tetra) テトロース
5 ペンタ(penta) ペントース
6 ヘキサ(hexa) ヘキソース
7 ヘプタ(hepta) ヘプトース
8オクタ(octa)
9 ノナ(nona)
10 デカ(deca)
単糖は分子内にアルデヒド(aldehyde)基もしくはケト(keto)基を1つもっている。アルデヒド基をもつ糖をaldose (アルドース)、ケト基をもつ糖をketose (ケトース)という。アルデヒド基は
のように末端の炭素にカルボニル基(C=O)がある場合の官能基の呼び名であり、ケト基は
のように間にはさまれた炭素にカルボニル基(C=O)がある場合の官能基の呼び名です。
単糖には光学異性体がある。
3単糖(トリオース)のL−グルセルアルデヒドとD−グリセルアルデヒドの構造を示します。

左の物質と右の物質では構造はよく似ているのですが、性質が少し違います。OHの向きが左と右になっているだけですが・・・。左右をそれぞれL−グルセルアルデヒドとD−グリセルアルデヒドといいます。炭素の番号はいちばん上のアルデヒド基を1番、次を2番、一番下を3番とします。2番の炭素ですが、米印をつけましたが、炭素についている基が全部違いますね。これをついているものがそろっていないという意味で不斉(整)炭素といいます。そういう場合には、OHが左向きのもの、右向きのものとでは性質が違っています。これを光学異性体といいます。2番のOHが左向きのものをL−型、右向きのものをD−型といいます。ヘキソースのD−グルコースを直鎖状に書くと、下のようになります。この場合には、1番のアルデヒド基から一番遠くにある5番目の炭素はやはり不斉炭素であり、OHが右向きにあり、他のOHの向きもこのような位置にある糖をD−グルコースと命名するのです。したがって、L−グルコースでは、5番目のOHは左向きになり、他のOHもD−グルコースと正反対の位置にもっていきます。これは決まりですから、そう覚えなくてはいけません。ところで、ヘキソースであり、アルドースであるものは他にもたくさんあります。実は下の図の炭素2番3番4番5番いずれも不斉炭素です。したがって、異性体の数は2x2x2x2=16通りで、DLの区別の2で割ると、ヘキソースであり、アルドースであるものの名前は8つあります。マンノースやガラクトースなどが該当します。このことを知っていると、糖の名前のめんどくささが少し解消されるかもしれませんね。
グルコースは直鎖状にもかけるが、環状構造にかくとよりよくその性質を表すことができる。

α−D−グルコース
D−グルコースは性質がちがう2つの物質を含んでいます。その理由は上の図のように、D−グルコースが直鎖状構造をとらずに環状にもなるからです。炭素1番のアルデヒド基と炭素5番の−OH(水酸基)があると、ヘミアセタール結合をつくって、環状になります。すると、今まで不斉炭素でなかった1番の炭素も不斉炭素になってしまいます。よく構造をみてください。炭素の4つの手にH, -OH, -O, C-H(-OH)がついていますね。全部ちがうものがついていますから、不斉炭素ですね。したがって、-OHが下向きについているときをα−D−グルコースと呼び、上向きについているときをβ−D−グルコースと呼び、区別します。このように、単糖の化学には、D,Lの区別とα、βの区別があります。
フルクトースは下の図のように、2位にケト基をもつケトースであり、炭素6個から成るヘキソースです。

D−フルクトースも性質がちがう2つの物質を含んでいます。その理由は上の図のように、D−フルクトースも直鎖状構造をとらずに環状にもなるからです。炭素2番のケト基と炭素5番の−OH(水酸基)があると、ヘミケタール結合をつくって、環状になります。すると、今まで不斉炭素でなかった2番の炭素も不斉炭素になってしまいます。よく構造をみてください。炭素の4つの手にCH2OH, -OH, -O, C-H(-OH)がついていますね。全部ちがうものがついていますから、不斉炭素ですね。したがって、-OHが下向きについているときをα−D−フルクトースと呼び、上向きについているときをβ−D−フルクトースと呼び、区別します。
糖の還元性
単糖には、ふつう1つアルデヒド基かケト基が含まれています。これらの基は他の物質を還元することができます。したがって、糖を検出したり、定量するのにこの性質が利用されています。アルデヒド基やケト基をもっている糖を還元糖といいます。
還元糖+Cu2+→酸化糖+Cu+
酸化第二銅(CuO)は還元されて酸化第一銅(Cu2O)になると赤くなるので、それを利用して還元糖の検出、定量が可能です。下の練習問題をやってみてください。
練習問題
次の単糖の名前を正確に書け。また、その糖の還元性を示す部分は何番で、何基か答えよ。4/17答え入力!

名前 (α−D−フルクトース)(β−D−グルコース) (α−D−グルコース)
番号 (2) (1) (1)
基の名前(ケト基) (アルデヒド基) (アルデヒド基)
次の記述のうち、誤っているのはどれか (5、6)
1)デンプンを加水分解すると、多数のβ−D−グルコースが生成する。2)ショ糖を加水分解するとD−グルコースとD−フラクトースができ、乳糖を加水分解すると、D−グルコースとD−ガラクトースができる。3)グルコースは還元性があるが、ショ糖、トレハロースには還元性がない。4)セルロースはグルコースだけからできているが、ヘミセルロースには種々のヘキソース、ペントース、ウロン酸などが含まれる。5)グルコースはフルクトースよりも甘味度が高い。6)グリーコーゲン分子には枝分かれがない。
2.糖質の化学 4/16/02(N。「)4/18/02(N氤)
二糖類

上記のように、α−D−グルコースとα−D−グルコースの左の1位の炭素(もともとアルデヒド基のところ)と右の4位の炭素の-OH基どうしから水(H2O)がとれて結合すると二糖類になります。これをマルトースといいます。結合様式はα(1→4)結合といいます。左のα−D−グルコースの炭素1番と右のα−D−グルコースの炭素4番との間で結合し、かつその時の左のα−D−グルコースの炭素1番の-OHがα向きであったためです。マルトースの左側のα−D−グルコースであったところは、共有結合した結果、もう左側の1位の炭素部位はもはやアルデヒド基ではありません。いいかえると、結合した結果、開いたり閉じたりしないようになります。ところが、右側のα−D−グルコースであったところの1位の炭素部位は、依然アルデヒド基の性質をもっていて、開いたり閉じたりします。ですから、マルトースには1個のアルデヒド基があり、還元性をもつ糖ということになります。*で示したところです。×印はもともと*印であったのが、結合したためにアルデヒド基ではなくなり、還元性がなくなったので、×印にしています。マルトースはデンプンという私たちの栄養源のコメ(ご飯)に含まれる多糖類を加水分解した時にできる二糖類です。グリコーゲンを加水分解した時にも生じます。

ラクトースの場合には、β−D−ガラクトースとα−D−グルコースとが脱水結合したものです。結合様式はβ(1→4)結合といいます。左のβ−D−ガラクトースの炭素1番と右のα−D−グルコースの炭素4番との間で結合し、かつその時の左のβ−D−ガラクトースの炭素1番の-OHがβ向きであったためです。ガラクトースの左側のβ−D−ガラクトースであったところは、共有結合した結果、もう左側の1位の炭素部位はもはやアルデヒド基ではありません。いいかえると、結合した結果、開いたり閉じたりしないようになります。ところが、右側のα−D−グルコースであったところの1位の炭素部位は、依然アルデヒド基の性質をもっていて、開いたり閉じたりします。ですから、ラクトースには1個のアルデヒド基があり、還元性をもつ糖ということになります。*で示したところです。×印はもともと*印であったのが、結合したためにアルデヒド基ではなくなり、還元性がなくなったので、×印にしています。ラクトースは乳糖のことで、母乳中に含まれています。何故、乳幼児にこの糖が必要なのでしょうか?それは左側のガラクトースにあります。ガラクトースは後で勉強しますが、脳神経の発達に必要な糖脂質の成分としてなくてはならないものだからです。乳幼児には、ラクトースを分解する酵素ラクターゼが多く含まれていますが、大人になると少なくなって、牛乳を飲むと下痢になりやすい人もいます。
ショ糖

ショ糖−スクロースはα−D−グルコースとβ−D−フルクトースがとが脱水結合したものです。結合様式はα(1→2)結合といいます。共有結合した結果、もう左側の1位の炭素部位はもはやアルデヒド基ではありません。右側のフルクトースであったところの2位の炭素ももはやケト基ではありませんね。したがって、2つのアノマー炭素に×をつけました。ショ糖は還元性はありません。これは今までの二糖とは全く違う性質をもつことになりますね。
トレハロース

トレハロースも還元性はありませんね。説明は要らないと思います。
多糖類
デンプン 分子量 数千〜数十万 グルコース 20〜2000個 (グルコースの分子量180) 植物の栄養貯蔵形態、我々の栄養源。
α−D−グルコースがα(1→4)結合でつながった主鎖と枝分かれをもつ。枝分かれの所はα(1→6)結合である。
非還元末端と還元末端がある。
グリコーゲン 分子量 数百万 グルコース 〜20000個〜 動物の栄養貯蔵形態、肝臓、筋肉に含まれる。
α−D−グルコースがα(1→4)結合でつながった主鎖と枝分かれをもつ。枝分かれの所はα(1→6)結合である。枝分かれはデンプンよりも多い。
非還元末端と還元末端がある。
セルロース 植物の細胞壁をつくる。
β−D−グルコースがβ(1→4)結合でつながったもの。人の栄養にはならない。人の腸内にはβ(1→4)結合を加水分解する酵素をもつ細菌が少ない。
草食動物のウシやウマは腸内にβ(1→4)結合を加水分解する酵素をもつ細菌が多い。
ヘミセルロース グルコースだけではなく、種々のヘキソース、ペントース、ウロン酸などからできていて、枝分かれ構造をつくっている。
リグニンと共存して細胞壁に固さを与えている。
ペクチン
D-ガラクツロン酸がα(1→4)結合でつながったもので、-COOHはところどころメチルエステル化されている。高等植物の細胞間をつくる。レモンの皮などに多く含まれている。

キチン
N-アセチル-D-グルコサミンがβ(1→4)結合した直鎖のポリマー。エビ、カニ、昆虫の殻をつくる。

ムコ多糖
糖誘導体
(教科書を参照して自分で書き込んでみてください。)
D−グルコサミン
N−アセチル−D−グルコサミン
D−グルクロン酸
D−グルコン酸
D−グルシトール
3.脂質の化学−脂肪酸、中性脂肪、リン脂質4/23/02(N。「)4/25/02(N氤)
脂質の構成成分
脂質というと、みなさんは”あぶら”を想像するでしょう。”あぶら”は水に溶けにくいことは誰しもわかります。全く性質のちがうものをよく水とあぶらの関係にあると言いますね。”あぶら”は漢字で油とも書けますし、脂とも書けます。漢字の油は英語ではオイル(Oil)に当たり、常温で液体のものです。一方、脂は英語ではファット(Fat)に当たり、常温では個体であるものをいいます。このように、脂質には常温で液体と固体という異なる状態をもつものがありますが、そのわけはどこにあるのでしょうか?構成成分についてよくみていくとわかります。脂質はタンパク質に次いで細胞に多い成分です。そのわけはどこにあるのでしょうか?真核細胞の中には図に示したように、多くの膜系からなる細胞内小器官があることは前に言いました。実は膜をつくるのには脂質が欠かせません。このことが細胞に脂質を多くしている大きな要因なのです。
中性脂肪
脂質は単純脂質と複合脂質に分けられます。それぞれに属するものを表に示しました。このうち、特に大切なものをみていきましょう。単純脂質はCHOから構成されていて、その代表的なものが中性脂肪です。中性脂肪は脂肪酸のカルボキシル基(−COOH)とグリセリンの水酸基(−OH)とが脱水結合して、図のようにエステル結合したものです。まずその成分について詳しくみてみましょう。

脂肪酸とグリセリン
脂肪酸は酸という言葉が示すように、アミノ酸と同様に、カルボキシル基を1個もっています。そしてメチル基(−CH3)を末端にメチレン基(−CH2−)を中にもっています。炭素の数はほとんど偶数個(2n)であり、その数は4〜30個です。細胞に多く含まれるものは、炭素数が12〜20個のものです。脂肪酸の1つパルミチン酸の構造を図に示しました。炭素16個でできていて、カルボキシル基1つもっています。末端にはメチル基があり、その間に14個のメチレン基があります。
CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH
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名前(パルミチン酸)融点(b) 名前(パルミトレイン酸)融点(d)
融点 a.80℃ b.63℃ c.44℃ d.-0.5℃
このように正確に書くには骨が折れるので、その下に示すように、メチル基、メチレン基を略して波線状に書いてもかまいません。カルボキシル基のところは赤く塗ったように、親水性を示します。一方、長いメチル基、メチレン基のところは水に溶けない疎水性の部分で黄色く塗りました。これだけ黄色い部分が多くなれば、水に溶けにくくなるのもわかると思います。脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とがあります。よく二重結合のないものが飽和脂肪酸で、二重結合のあるものが不飽和脂肪酸と呼ぶという教科書が多いですが、本質をみていません。飽和とは何が飽和しているのか?不飽和とは、何が不飽和なのか考えた方がよいと思います。下図をみてください。
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先ほど示したパルミチン酸には、二重結合がないので、飽和脂肪酸になるのですが、カルボキシル基のところは決まっていますから、他のどの炭素にももうこれ以上つけないだけの水素(H)がついています。飽和脂肪酸とは水素がもうこれ以上つけない水素が飽和した脂肪酸のことなのです。メチレン基には最大で2個までしかHはつけません。ところが、メチレン基とメチレン基の間に二重結合ができると、その部分の炭素には1個しか水素(H)がついていません。すなわち、不飽和脂肪酸とは水素が不飽和な脂肪酸のことなのです。水素が不飽和な脂肪酸だから、二重結合が結果としてあるのだと考えた方がわかりやすいと思います。不飽和脂肪酸には二重結合が2個以上あるものもあります。これを多価不飽和脂肪酸とよびます。さて、細胞内によくある飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の名前と融点を表に示しました。ここに書かれた脂肪酸くらいは、専門の勉強をする時には、身につけてもらいたいものです。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の融点はどちらが高いでしょうか?その時に、炭素の数も考える必要があります。例えば、パルミチン酸とパルミトレイン酸では、炭素の数はどちらも15ですから、この2つの脂肪酸の融点の違いは二重結合のあるなしによっていることがわかります。この2つの脂肪酸で融点は何と63.6℃も違います。パルミチン酸の融点は63.1℃ですから、常温では固体ですが、パルミトレイン酸は-0.5℃で、常温では液体です。このように、飽和脂肪酸は常温ですべて固体です。しかも、炭素の数が増せば増すほど、融点は高くなっていきます。次に、不飽和脂肪酸で二重結合の数が増すとどうなるかをみてみると、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸と二重結合が1、2、3と増えていくと、融点はますます低くなることがわかります。このように、脂肪酸には常温で固体のものと、液体のものがあるのです。油と脂の違いは実はそれぞれに含まれる脂肪酸のちがいに由来していたのです。外見だけで、物質をみるとその違いの本質を見誤ることもあります。細胞には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とがあるのでしょう?飽和脂肪酸は硬さを与えてくれますが、細胞には軟らかさも必要なのです。この2つの絶妙なバランスが生命の妙を生み出しているのかもしれません。
覚えるべき脂肪酸
飽和脂肪酸
パルミチン酸
ステアリン酸
アラキジン酸
不飽和脂肪酸
オレイン酸
リノール酸
リノレン酸
アラキドン酸
エイコサペンタエン酸
ドコサヘキサエン酸
中性脂肪の性質
中性脂肪のことを英語ではトリグリセリドとよびます。上の図のように、グリセリンの3つの水酸基に脂肪酸が3つエステル結合しています。グリセリンの水酸基
-OHと脂肪酸のカルボキシル基 -COOHとの間で水がとれて結合したものです。前に話したように、-OHも-COOHも水に溶けやすい親水性の部分ですから、ここが結合すると、中性脂肪の中には親水性のところがなくなってしまいます。このことは、水に溶けにくくなるので、一見不利に思えるかもしれませんが、水に溶けにくい、すなわち疎水性になることが有利なこともあるのです。何故ならば、疎水性になると、密に物質を濃縮することが可能になります。生体内でこのような脂肪の貯蔵は大切なことです。私たちの体には皮下脂肪のかたちで中性脂肪が貯えられています。この貯えはエネルギーが不足したときに使われるだけではありません。体にまるみを持たせ外界からの物理的な衝撃を柔らげる働きもしています。中性脂肪のかたちの方が体内を運搬するときにもコンパクトに運べるので便利です。
リン脂質
リン脂質は中性脂肪の3つの脂肪酸エステルの1つがないかわりに、グリセリンの-OHのところにリン酸がエーテル結合しています。これをホスファチジン酸といいます(X=Hの場合)。リン酸のことを英語でphosphoric
acidといいますから、そのリン脂質という意味でこうよばれています。リン酸の-OHのところにさらにいろいろな化合物がエーテル結合することにより、いろいろなリン脂質となります。

結果として、図のように-OXのかたちでX基がついていることになります。Xには図に示したようにいろいろな化合物があります。コリンが結合したものはホスファチジルコリンといいます。これを別名レシチンともいい、卵黄に多く含まれています。ホスファチジルコリンは図のように+の荷電と−の荷電をもっていますから、電気的には中性です。
ホスファチジルコリン(PC)
ホスファチジルエタノールアミンも同じです。アミノ酸のセリンがついたホスファチジルセリンでは、電気的には−1のリン脂質で酸性リン脂質とよばれています。
ホスファチジルセリン(PS)
ホスファチジルエタノールアミン(PE)
ホスファチジルイノシトール(PI)
いずれにせよ、いろいろなX基をもったリン脂質があることが生体をつくるのに大切になっています。下図ようにリン脂質には疎水性の脂肪酸の長い側鎖の部分が2つあります。
糖脂質
教科書を参考にしてください。何故?乳幼児にラクトースが必要なのかわかりますね!

一方、頭部には、リン酸とX基とからなる水に溶けやすい親水性の部分があります。リン脂質はこのように疎水性と親水性の相反する性質の部分をもっています。このような物質のことを両親媒性であるといいます。水と油のような溶媒のどちらにもなじむことができるという意味です。この性質が生体の膜をつくるときに重要になってきます。
コレステロール
動物の生体膜をつくるのに、もう1つ大事な物質があります。コレステロールです。コレステロールというと、動脈硬化をおこす悪い物質とのイメージがあるかもしれませんが、膜をつくるのに欠かせない物質です。C27個でできています。-OH基に脂肪酸がエステル結合したものはコレステロールエステルといいます。そこで、コレステロールのことを遊離コレステロールといいます。

下図のように、コレステロールは水に溶けにくい疎水性の物質ですが、1箇所だけ親水性の水酸基-OHをもっています。したがって、図のように膜をつくるリン脂質の間に入り込み、膜の動きをにぶらせる働きがあります。もともとリン脂質の脂肪酸の側鎖の部分は屈曲運動をしたり、回転運動をしたりして、膜のゆらゆらした動きをおこすのに働いていますが、図のようにコレステロールがそのすき間に入るとその動きを妨害することになります。赤血球膜やミエリン膜にはコレステロールが多く含まれています。

コレステロールはステロイドホルモン(教科書p.214 図18−4)、胆汁酸(教科書p.92図8−8)、ビタミンD3(教科書p.127図10ー3)の出発物質(前駆体)でもあります。
3.脂質の機能 4/23/02(N。「)4/25/02(N氤)
リポタンパク質
リポタンパク質とは何か?をまず説明しましょう。

リポタンパク質とは、上の図のように、リン脂質
とタンパク質
からできた球状の複合体で、外側が水に溶けやすくなっていて、中にコレステロール
、コレステロールエステル
やトリグリセリド
を密に貯えて、水でできた血液の中を運搬しやすいようにして運んでいます。脂質は水に溶けにくいですが、それらは逆に水ぶくれしないので、リポタンパク質の内部にぎゅっと濃縮されて運ばれるわけです。そのリポタンパク質には、カイロマイクロン(カイロミクロン)、VLDL、LDL、HDLの4種類があります。
カイロミクロン-Chylomicron---Chyleは濁りのある白いまたは黄色いの意 micronは小さいの意 すなわち、濁りのある白または黄の小さな粒子のこと
VLDL-Very Low Density Lipoproteinすなわち超低比重リポタンパク質
LDL-Low Density Lipoproteinすなわち低比重リポタンパク質
HDL-High Density Lipoproteinすなわち高比重リポタンパク質
カイロミクロンは小腸で合成され、食事由来の脂質成分を体内に吸収運搬するはたらきをしています。VLDLは肝臓でつくられ、肝臓でつくられたトリグリセリドを末梢組織に運搬しています。LDLはVLDLからつくられていくのですが、肝臓でつくられたコレステロールを末梢組織に運搬しています。一方、HDLは肝臓または小腸で合成され、末梢組織の余ったコレステロールを肝臓に逆輸送し、肝臓で分解させるためにコレステロールを肝臓へと運搬しています。これらの4つのリポタンパク質は比重に大きな違いがあります。カイロミクロンは比重が0.96以下です。すなわち、水よりも軽いことになります。VLDLは1.006〜1.063、LDLは1.063〜1.220、HDLは1.220以上になります。何故、カイロミクロンは軽いのかというと、下の図のように大きなリポタンパク質なのです。言い換えると、脂質が多く、タンパク質は少ないのです。脂質は油が水に浮くことからわかるように、水よりも軽く、カイロミクロンは水よりも軽くなります。

これに対して、HDLは粒子がすごく小さくなります。すなわち、脂質の割合が少なく、タンパク質の割合が多くなります。大きなヘリウム入りの風船に重りをつけると、風船が舞い上がりますが、小さな風船に同じ重りをつけると、沈んでしまいますね。それと同じことと思って下さい。これらのリポタンパク質のうち、LDLをよく悪玉といいます。逆にHDLを善玉といいます。実際に、LDLの多い人は動脈硬化になりやすく、HDLの多い人は動脈硬化になりにくいのです。LDLが増えて末梢組織にコレステロールをどんどん運ぶと末梢の血管に動脈硬化があらわれるのです。HDLは末梢組織の貯まったコレステロールを肝臓に逆輸送し、末梢組織を掃除してくれますから、まさしくよい善玉でしょう。LDLは増え過ぎてしまうと、酸化されておうおうにして変性LDLになってしまいます。すると、血液中のマクロファージが体に悪いものとして食べてしまいます。すると、マクロファージは変性LDLを食べ続けて、ぶくぶく太りそれらがだんごになって泡沫化してしまいます。詳しくはこのホームページを見て下さい。さー、そうなると、このホームページのように血管内がつまってくるのです。その引き金が何なのかはまだよくわかりません。
リポ多糖
リポポリサッカライドともいう。グラム陰性細菌表層のペプチドグリカンを取り囲んで存在する外膜の重要成分。リピドAという脂質とこれに共有結合した各種の糖からできている。多糖部位は比較的均一な構造をとるRコアと異なる構造をとるOコアからできている。リポ多糖は糖の非還元末端を外膜の外側に向けて存在している。O抗原、R抗原として菌の抗原決定因子になっている。また、内毒素として多様な生物活性を示す。
脂質の機能
中性脂肪の役割
中性脂肪は前に示した構造からわかるように疎水性が強く、水和することがありません。中性脂肪どうしが密にくっつきます。貯蔵形態としてすぐれています。脂肪は1gあたり9.3 kcalのエネルギーを生じ、糖質、タンパク質のエネルギー−4.1 kcal/gの2.3倍高いのです。さらに、糖質、タンパク質は水和して体積が増えるのですが、脂質は密に蓄えられるので、体積あたりのエネルギー貯蔵の効率は8倍も高いことになります。
例えば50kgの女性の場合を考えてみましょう。この女性の体脂肪率が30%とすると、15kgが体脂肪になりますね。それを糖質に代えて体をつくると、(50-15)+15x8=155kgの体重が必要になります。こんな体になるのは誰も好みませんね。脂肪は我々の体の中の貯蔵エネルギーになるだけではなく、体にまるみや弾力を与えて体を保護しています。
脂肪酸の機能 誘導体−プロスタグランジン
プロスタグランジンはヒツジの前立腺(prostate gland)から発見された物質で、その名に因んでprostaglandin(プロスタグランジン)と命名されました。プロスタグランジンは英語でPGと略します。PGはC20:3(エイコサトリエン酸)、C20:4(アラキドン酸)、C20:5(エイコサペンタエン酸)からつくられます。それぞれPG1, PG2, PG3系列のPG誘導体ができます。最も有名なのはアラキドン酸からできるPG2系列の誘導体です。前にデンマーク領のグリーンランドのエスキモーに動脈硬化が少なく、エスキモーの人でデンマーク本国に移住した人には動脈硬化がデンマーク人と同様の頻度で起きるという話しをしました。この話しはエスキモーに動脈硬化が少ないことが遺伝的素因ではなく、食事を含めた外的環境因子に起因していることを示唆しています。エスキモーの血液の血球の脂質成分にエイコサペンタエン酸が多く、デンマーク人にはアラキドン酸が多いことがわかってきました。エスキモーはアザラシの肉を食べていますが、そのアザラシは北洋の魚を食べています。その魚はオキアミを食べています。そのオキアミは動物プランクトンを食べ、その動物プランクトンは植物プランクトンを食べています。いわゆる、食物連鎖の結果、エイコサペンタエン酸は植物プランクトンからエスキモーまで生物濃縮されて移動しているのです。しかし、アラキドン酸とエイコサペンタエン酸にどんな違いがあるというのでしょうか?その原因は実はこのPG誘導体の作用の違いにあることがわかってきました。下の図にあるトロンボキサンA2は、アラキドン酸からPG経由でつくられます。強力な血小板凝集作用を引き起こす局所性ホルモンです。エイコサペンタエン酸からつくられるトロンボキサンA3にはこの作用が弱いことがわかりました。血管内の閉塞の有無つまり血液をどろどろにするかさらさらにするかにはこのトロンボキサンAだけではなく、もう1つの局所性ホルモンのPG誘導体が関係しています。それはPG I誘導体です。またの名前をプロスタサイクリンといいます。このホルモンは血管平滑筋の弛緩をおこす物質です。アラキドン酸からできるPGI2もエイコサペンタエン酸からできるPGI3も同様に血管平滑筋の弛緩作用は同じくらい強いことがわかりました。つまり、アラキドン酸からできるトロンボキサンA2とPGI2では血管内を丁度うまくどろどろにもせずさらさらにもしない状態にしています。一方、エイコサペンタエン酸からできるトロンボキサンA3とPGI3では血管内が少しさらさら状態になっているのです。事実、エスキモーは一旦出血すると血液が固まらない状態(出血傾向)になっています。前にも云いましたが、エイコサペンタエン酸はサバやイワシなどの青魚の青い脂身にふくまれています。動脈硬化を防ぐには、積極的に青魚を食べる必要があります。タイやヒラメのような白身の魚ばかり食べてはいけません。

誘導体−ロイコトリエン(LT)
ロイコトリエン(Leucotriene)の語源のロイコ(Leuco)はロイコサイト(Leucocyte)は白血球のからきています。トリエンは最初は二重結合を3個もつとみられたためにtri=3 ene=二重結合の意味で名付けられました。白血球の遊走亢進因子としてみつかったものです。他に気管支にゆるやかな持続性の収縮を起こさせたり、血管透過性を亢進したりする作用をもっています。プロスタグランジン、トロンボキサンと同様に局所的に作用するホルモンのようなものです。プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンいずれもすぐに代謝されて分解されてしまいます。これらの物質はふつうのホルモンと区別してオータコイドと云われています。ロイコトリエンはアラキドン酸にリポキシゲナーゼという酵素が作用してできた5-hydroperoxy-eicosatetraenoic acid (5-HPETE)からつくられます。LTA4にグルタチオンというトリペプチドが結合してさらに代謝されて、LTC4、LTD4、LTE4になります。
生体膜−細胞膜
赤血球の膜のリン脂質は不均一に分布しています。すなわち、外側には糖脂質やスフィンゴミエリン、PCが多く、内側にはPEやPSが多いことが知られています。
コレステロールの役割
胆汁酸の役割
リポタンパク質とリポ多糖の役割
5蛋白質の化学と機能−アミノ酸の構造 20種のアミノ酸の構造と性質
5/7/02(N。「)5/9/02(N氤)
細胞にはどのような物質が含まれているのでしょうか?表に細胞の固形成分(すなわち水を除いたもの)の組成を示しました。
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タンパク質、脂質、糖質、核酸、無機質などからつくられています。このうち、タンパク質、脂質、糖質は私たちにとって三大栄養素ともいえるものです。核酸は遺伝子として細胞になくてはならないものです。この他、無機質は細胞のはたらきにとって欠かせない役割をもっています。これから、その1つ1つについて、化学的性質とそのはたらきを考えてみましょう。
タンパク質
タンパク質のことを英語ではプロテイン(protein)と呼んでいます。その由来はギリシア語のproteiosにあり、第一番目に重要なという意味をこめて命名されたものです。どうして、タンパク質は第一番目に重要なのでしょう?それは、表からもわかるように、タンパク質は細胞の固形成分の中で一番多いのです。一番多く含まれているからには、それが重要なものであるという認識が古くからありました。事実、タンパク質は細胞の中で、いろいろな大切な働きをしています。そのはたらきを表3-5(教科書p35)に示しました。生体内で構造維持に関係したり、酵素としてはたらいたり、輸送に関係したり、外来異物の処理にあったたり(免疫)といろいろなはたらきをもつことがわかります。1つ1つを今すべて理解する必要がありませんが、タンパク質がいかに多くの生命活動に関係しているかを知るだけで十分です。わたしたちの生命活動のほとんどすべてにタンパク質が関わっているのです。
タンパク質の構成成分
タンパク質は20種類のアミノ酸と呼ばれる有機化合物からつくられています。アミノ酸の一般構造を図に示しました。
アミノ基![]()

カルボキシル基
アミノ酸という名前からもわかるように、炭素につく4つの手に、アミノ基と酸性を示すカルボキシル基がついています。あとの2つの手の1つには水素(H)がついています。残りの1つはふつうRと表示します。Rとは側鎖のことで、英語でresidueと呼ぶので、その頭文字を使います。このRの部分がいろいろ変わることにより、違った構造のアミノ酸になるのです。アミノ酸のアミノ基をみたときに、ぜひアンモニア水を思い出してください。アンモニア水はアンモニア(NH3)ガスが水(H2O)に溶けたもので、NH4OHと書けます。NH4OH→NH4++OH−となり、OH−が出てきますから、アルカリ性ですね。したがって、アミノ基もアルカリ性を示すところだなと思ってください。一方、カルボキシル基については、酢酸(酢)を思い出してください。酢酸はCH3COOHですから、CH3COOH→CH3COO−+H+となり、H+が出てきますから、酸性を示すところだなと思ってください。このアルカリ性と酸性を示す2つの基をもっているところがアミノ酸の特徴です。また、タンパク質をつくっているアミノ酸は1つの例外であるグリシンを除いて、アミノ基は炭素の左側にあるものだけでできています。

上図に示したように、アミノ基が左と右についているだけで、厳密にはこれらのアミノ酸は構造上、似てはいるが別のものとなるのです。左側にアミノ基があるアミノ酸をL−アミノ酸とよび、右側にあるD−アミノ酸と区別しています。タンパク質にL−アミノ酸しか含まれないのは、タンパク質をつくるときには、方向性があるからです。タンパク質をつくる場合には、L−アミノ酸どうしをつないでつくるですが、必ずアミノ基が末端にあります。もしも、D−アミノ酸を使うのなら、カルボキシル基が末端にあることになります。この議論はあとで詳しく述べましょう。下に20種類のアミノ酸を示しました。

アミノ酸はふつうアルファベット3文字であらわすと区別がすぐにつきます。例えばグリシンはGlycineですからGly、アラニンはAlanineですから、Alaと書きます。わかりにくいのは、イソロインシン、IsoluecineでIleと書きます。トリプトファン(Tryptophan)ですが、チロシン(Tyr)と区別するように、Trpとします。だいたい英語で書いたアミノ酸の最初の3文字を使っています。これをすべて暗記せよ!とやると、はじめは皆いやになるでしょう。そうではなく、このバラエテイーにまずおどろいてほしいものです。もう1つしいて理解してもらうならば、側鎖には水にとけやすいもの(親水性)と、水にとけにくいもの(疎水性)とがあることです。アミノ酸の側鎖の水にとけにくいところを黄色で、水にとけやすいところを赤(青)で示しましょう。側鎖がすべて黄色になるところと、赤いところが入っているものと2通りあることに気付いてください。これはタンパク質を考える上に大切な見方なのです。これから、タンパク質の構造について考えてみましょう。タンパク質の構造を考えるには、簡単なものから複雑なものへと順序だって考えることが必要です。ちょうど、一次元、二次元、三次元と直線から、平面へ、そして立体へと考えていくのと同じです。タンパク質の構造を考えるには、一次構造、ニ次構造、三次構造、四次構造という構造のみかたがあり、単純な方から複雑な方へと考えていきます。
タンパク質の一次構造
タンパク質の一次構造とは、20種のアミノ酸が直線的に配列されることをいいます。図(教科書p28)に示したように、最初のアミノ酸のカルボキシル基と次のアミノ酸のアミノ基との間で、水がとれて、
のかたちで結合していきます。この結合をペプチド結合といいます。さらに、2番目のアミノ酸も同様に3番目のアミノ酸との間でペプチド結合をつくり、これがくりかえされてアミノ酸が数珠つなぎにつながっていきます。したがって、タンパク質にはアミノ酸の始まりの部分ともうこれ以上次のアミノ酸をつながない終わりの部分をもっています。最初のアミノ酸の左側には、必ずアミノ基があり、終わりのアミノ酸の右側にはカルボキシル基があります。最初の末端のことをアミノ末端、もしくはアミノ基のNをとってN−末端ともいいます。最後のアミノ酸の右側の末端をカルボキシル末端、もしくはCarboxylの頭文字をとってC−末端とよびます。タンパク質とはふつうアミノ酸が50個以上つながったものをいいます。アミノ酸が50個よりもすくないものはペプチドとよばれています。よく知られているいちばん小さいタンパク質はインスリンという血糖値を下げるホルモンです。その構造(A鎖)を図(教科書p25
図2.9)に示しました。このようにタンパク質をつくる時には20種あるアミノ酸のどれも使えますので、タンパク質をつくる場合に50個アミノ酸をつなぐと、その組み合わせは20通りを50回かけ合わせることになります。すなわち2050通りというまさに無数のちがったタンパク質をつくれる可能性をもっているわけです。生物をつくる物質でこれほど多様性に富んだものは他にはありません。要するに、生物に大きなゾウがいたり、小さなカがいるように、生物の多様性を決めているのはこのタンパク質のおかげであることは間違いありません。昔、恐竜のように大きな生物が誕生したわけも実はこのタンパク質の中に理由があるはずです、タンパク質は無数といってよいほどたくさんの可能性をもってつくれるわけですから、その1つ1つについてタンパク質の役割を研究するまでにはいたっていません。おそらく、これまでわからなかったいろいろな生命のなぞのほとんどがこのタンパク質の中に隠されているわけですから、タンパク質の研究がいかに大切であるかわかるでしょう。
6蛋白質の化学と機能 <蛋白質の1〜4次構造>
5/14/02(N。「)5/16/02(N氤)
タンパク質のニ次構造
タンパク質の一次構造とは、20種のアミノ酸の直線的配列のことをいいますが、これを針金にたとえてみると、針金も少しバネのコイルのようになったり、ジグザクの波型になったりします。これをタンパク質のニ次構造といいます。図(教科書p29)にその代表的な構造の2つを示しています。1つは、バネのコイルのように、アミノ酸どうしがつながって直線的に配列したものが、らせん状になることです。このような構造をとることをα−ヘリックス構造といいます。図のように3.6個のアミノ酸残基で1回転するコイル状構造をとっています。このコイルをつくる力は少しはなれたアミノ酸のペプチド結合の中の−NHとO=C−の間で水素結合とよばれる力で結びつくことでコイルができあがります。もう1つの構造はβ−構造と呼ばれるものです。針金が波型になって、それがいくつか平行に並ぶと図のようにタンパク質の中でトタン屋根のような面をつくれることになります。この場合にも、隣あった鎖のペプチド結合の−NHとO=C−の間での水素結合が固い構造をつくるのにはたらいています。球状をしたタンパク質の内部にはこのようなβ−構造のシートが骨組みをつくっています。
タンパク質の三次構造
タンパク質をつくるアミノ酸の鎖を針金に例えましたが、それはタンパク質のニ次構造では、直線的なものから、ばねのコイルのようになったり、波型になったりしました。そのような針金を折り畳んで立体化していくと球状になったり、だ円状のタンパク質へとなっていきます。これをタンパク質の三次構造といいます。このような折り畳みを生み出すには直線的にできたアミノ酸の鎖の遠く離れたところどうしで結合しあう力が必要になります。

図にその結合の力となるものを示しました。一番強い結合はシステインというアミノ酸の側鎖の−SH基と−SH基の間で水素がとれて、−S−S−の形で結合するもので、S−S結合(英語ではジスルフィド結合)とよばれています。これは前に話した共有結合ですから、熱をかけても切れない強い力です。この他、リジンやアルギニンのように、側鎖に−NH3+をもつアミノ酸とアスパラギン酸やグルタミン酸のように側鎖に−COO−をもつアミノ酸との間の+と−のイオンどうしの間ではたらくイオン結合、セリン、スレオニン、チロシンのように、側鎖に水酸基(−OH)をもつものどうしではたらく水素結合、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニンなど側鎖が水に溶けにくい、いわゆる疎水結合の側鎖どうしが結合する疎水結合などがあります。アミノ酸にはアミノ基とカルボキシル基があり、いずれの基もイオン化します。しかし、タンパク質はアミノ酸のつながった鎖でできていますが、図のようにアミノ酸のカルボキシル基と次のアミノ酸のアミノ基との間でペプチド結合をつくっていますから、ペプチド結合した部分はイオン化できません。N−末端とC−末端の部分だけはイオン化します。したがって、上記のイオン結合に関係するのは、アミノ酸の側鎖にあるアミノ基とカルボキシル基がほとんど関係していることになります。他の結合もすべてほとんどがアミノ酸の側鎖の部分が関係していることになります。もう1度、アミノ酸の構造をみてください。20種のアミノ酸の側鎖の部分がいかにバラエテイーに富んでいて、これらの結合をつくるのにうまく配されているかがわかることでしょう。タンパク質は細胞の例えば細胞質のように水成分に存在している場合には、その水の中に溶けて存在しなければなりません。このような場合には、図のようにタンパク質の表面の部分には水にとけやすいアミノ酸、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジンなど側鎖が水に溶けやすいものが集まっています。逆に、タンパク質の内部には、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニンなど側鎖が水に溶けにくいアミノ酸が集まっています。表面が水に溶けやすければ、タンパク質は水の中で溶けた状態で存在できます。ところが、タンパク質の三次構造をつくる力になっているイオン結合、水素結合、疎水結合などを壊すことが起きると、タンパク質は構造が変化します。表にその作用を起こす条件を示しました。これをタンパク質の変性といいます。タンパク質の変性がおきると、タンパク質の内部にあった疎水性のアミノ酸の側鎖が表面に露出して、タンパク質は水に溶けにくくなります。これをタンパク質の沈澱といいます。


卵の白身の部分が、熱で沈澱したり、凝固したりするのがそのよい例です。アミノ酸の側鎖に疎水性のものと、親水性のものとがあることが、タンパク質の構造をつくるのに、大切なはたらきをしているのです。
タンパク質の四次構造
タンパク質の中には、いくつかのタンパク質が集まって初めて大切な機能をもつようになることがあります。例えば、ヘモグロビンという赤血球の中にある酸素をはこぶタンパク質はαとよばれるタンパク質の鎖とβとよばれるタンパク質の鎖がそれぞれ2個ずつあつまり、計4個そろってはたらいています(教科書p32
図2.18)。このような例はいろいろな調節のはたらきをもつ酵素や生体内の構造維持などに大切です。図に示したアクチンは、筋肉や細胞内の骨格をつくるのに必要なタンパク質ですが、球状のタンパク質が1回転するのに約2個集まってらせん状のアクチン繊維(フィラメント)をつくっています。このように、タンパク質が集まってあるはたらきをもつ集合体をつくるときに、その単位となるタンパク質のことをサブユニットといいます。生命を生み出す細胞の構造づくりには、この球状のサブユニットが集まって円筒をつくったり、平面の構造となったりしていることがよくあります(図3-5
教科書p30)。
7核酸の化学と機能
5/21/02(N。「)5/23/02(N氤)
核酸
核酸は生物の一番重要な性質すなわち子孫を残すという性質を実現させるのになくてはならない物質です。子孫を残すことを遺伝といいますが、遺伝の因子である遺伝子そのものです。核酸は、塩基、糖ならびにリン酸からできています。その3つの成分が結合して核酸の単位であるヌクレオチドをつくります。核酸に使われている糖に2つの違ったものがあり、1つはデオキシリボースで、もう一方はリボースです。デオキシリボースをもつ核酸をデオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic
acid)といい、その頭文字をとってDNAといいます。リボースをもつ核酸をリボ核酸(Ribonucleic acid)といい、その頭文字をとってRNAといいます。その違いをみるために塩基、糖ならびにリン酸の構造を詳しくみてみましょう。
塩基









図のように、これまでみてきた塩基、デオキシリボースまたはリボース、そしてリン酸が脱水結合してヌクレオチドができます。このとき重要な約束があります。塩基の炭素、窒素の番号を示すのにピリミジン塩基なら1〜6、プリン塩基なら1〜9を使ったので(教科書図4−1 p.37参照)、デオキシリボースまたはリボースの炭素の番号を示す場合には、1'〜5'を使うことにします。核酸の勉強にはこの1'〜5'が何を意味するか知る必要があります。リン酸はデオキシリボースまたはリボースの5'の炭素の-OHとの間で脱水結合しています。一方、塩基はデオキシリボースまたはリボースの1'の炭素の-OHとの間で脱水結合していることがわかります。こうしてヌクレオチドができるのですが、このヌクレオチドがつながってDNAまたはRNAになります。図にはアデニンヌクレオチドを書きましたが、デオキシリボースを糖としてもつヌクレオチドをdAMP、リボースを糖としてもつヌクレオチドを単にAMPと書きます。したがって、教科書の図4−2のように、AMP, ADP, ATPはリボースを糖としてもつヌクレオチドです。表4−1のように、AMP, ADP, ATPにはdAMP, dADP, dATPもあります。GMP, GDP, GTPにも両方があります。CMP, CDP, CTPも同じです。TMP, TDP, TTPもしかりです。しかし、UMP, UDP, UTPにはdのつくものは要りません。UはRNAにしかありません。実はリボヌクレオチドを還元してデオキシリボヌクレオチドをつくるので、dのつくものは要らないのです。
ある物質の単位がたくさんつながったものをポリマーといいます。その1つ1つの単位をモノマーといいます。したがって、DNAやRNAはそれぞれのヌクレオチド単位のモノマーのつながったポリマーであり、ポリヌクレオチドというわけです。その構造を図に示しました。ここで、DNAやRNAを考えるときに大切なことがあります。それは、DNAもRNAもヌクレオチドをつないでいくときに方向性があることです。すなわち、5’末端から3’末端へとヌクレオチドをつないでいきます。このときに、DNAであれば、デオキシリボースの、RNAであればリボースの3’の炭素の-OHと2個目のヌクレオチドのリン酸の-OHとの間で脱水結合してつながっていくことになります。これが次々とつながていきます。ちょうど前に説明したタンパク質のアミノ酸のつながりのように方向性をもってつながっていくわけです。DNAもRNAも無限にヌクレオチドをつないだものではありませんから、最後のヌクレオチドがあります。そこは図のように次のヌクレオチドはつなげませんから、デオキシリボースまたはリボースの3’の炭素の部分には-OHがついていることになります。タンパク質にもN−末端とC−末端があったのと同じようになっています。これを模式的に書くよい方法があります。今、リン酸を
、デオキシリボースを
、塩基
をで表します。すると、ヌクレオチド単位は
のように表され、これがつながったものは、
となります。これが、2本鎖のDNAになると、

となります。一方の鎖の左端が5’−末端だとすると、もう一方の鎖の左端は3’−末端になっていることに注意してください。これは決まりですから、覚えておくしかありません。
さて、DNAの構造については、1953年にワトソンとクリックが図のような二重らせん構造になっていることを発見しました(教科書図4−4 p.40参照)。このとき、らせん階段のステップの部分は塩基がお互いに対を形成し、らせん階段の手すりの部分をむすびつけています。この塩基の対をつくるのには、A=T,
G≡Cと対を形成する塩基が必ずきまっています。図4−4のように、この対の形成には水素結合が関係しています。A=T、G≡Cと書いたように、AとTの間には2つの、GとCの間には3つの水素結合があります。AとGは前に話したように、プリン塩基です。CとTがピリミジン塩基です。プリン塩基の方がピリミジン塩基より少し大きいですね。A=T、G≡Cのそれぞれの対形成にはプリン塩基とピリミジン塩基が1つずつ使われていることになります。こうすれば、階段のステップの長さは等しくなり、平行ならせん階段ができることになります。DNAは遺伝子であることがわかったのですが、この物質が自分自身から自分の分身をつくり出す能力を持っていれば可能です。詳しくは後で述べますが、それは本当に簡単な規則、原理から可能になるものだったのです。先ほどA=T、G≡Cと塩基の結び付きが決まっているといいましたが、実はその簡単な規則が自分自身から自分の分身をつくり出す能力を持たせてくれているのです。
8核酸の化学と機能
5/28/02(N。「)5/30/02(N氤)
遺伝子DNAのしくみ
遺伝子DNAの勉強をしていて、皆さんまだわからないことがたくさんあるはずです。遺伝子DNAはどんな働きをもっているのか?これまで学んできた遺伝とDNAの複製がどのように関係しているのか?など未解決のままですね。先に答えを言ってから、学んだ方がよいと思います。下に生物学のセントラルドグマを示します。

セントラルとは中心のことです。ドグマとは命題のことです。したがって、生物学の中心命題と日本語訳されています。生物学には、物理学や数学などの法則と呼ばれるものはあまりないのですが、遺伝子DNAがどんなはたらきをしているのか、それがはたらく時にはどのようにしてはたらくのかについて、中心命題という法則があることがわかりました。これはどの生物にも当てはまるもので、DNA→RNA→タンパク質という流れがあるのです。ここに複製以外に新しい言葉が登場しました、それは、転写、翻訳です。mRNAも耳慣れない言葉である人もいるでしょう。今すべてを理解しなくてもけっこうです。これを見て、2つだけ、驚いてほしいことがあります。1−DNAは自分自身から自分をつくる複製ができること。2−DNAは実はタンパク質をつくる暗号であること。この2つを頭に入れて、複製、転写、翻訳について説明していきましょう。
DNA複製
まず、DNA複製から説明していきましょう。これまで何度も述べてきましたが、生命のいちばんの特徴は子孫をつくれることでした。むずかしい言葉では、自己複製能力があることです。生物学のセントラルドグマを見てわかるように、矢印が丸くなっていて、自分から自分に戻ってきていますね。これが大切なところです。これまで学んできたように、DNAは自分自身から全く同じDNAのコピーをつくれるのでした。そのわけは、DNAの塩基がA=T,
G≡Cの塩基の相補性の原理で結びつくからでした。簡単な原理が複製を支えているのです。子孫をつくることは、すなわち親のもっているものを子、孫へと受け継いでいくことなのですが、DNAという単純な物質にのみこの複製能力があり、DNAが親から子へ、子から孫へと伝わり、遺伝が可能になるのです。
DNA複製のしくみ
図に示したように、DNAが複製されるときに二重らせんのリボンがほどけながら、そこに新たなリボンが巻き付いていきながら複製がおきると信じている人も多いかと思います。しかし、この単純なモデルはDNAの構造を知る人には矛盾を含んでいます。DNAの構造をもう一度思い出してください(P参照)。図のようにDNAの鎖の一方は上側が5'-末端であり、下に向かって3'-末端へと伸びています。ところが、もう一方の鎖は二重らせんをつくる時には、下側が5'-末端であり上に向かって3'-末端へと伸びています。DNAは図のように、ATP,
GTP, CTP, TTPと呼ばれるヌクレオチドをDNAポリメラーゼという酵素でつないでいきます。ポリメラーゼというのは、英語でpolymeraseと書き、DNAがつながって高分子となったポリマー(polymer)をつくる酵素(ase)という意味です。この時には、必ず5'-末端から3'-末端へとヌクレオチドをつないでいきます。ちょうど、アミノ酸を使ってタンパク質をつくる時にN-末端からC-末端へとアミノ酸をつないでいくように、DNAの複製−合成にも方向性があるのです。そうすると、1つのDNAの鎖は下から上に5'-末端から3'-末端へと合成できますが、もう1つの鎖は下から上に合成がおきるのならば、3'-末端から5'-末端へと合成することになり、矛盾が生じます。
DNAの複製は図のようにDNAフォークと呼ばれるように、DNAが開いて複製が始まります。5'-末端から3'-末端へと複製が連続しておきるもとの鎖をリーデイング(進む)鎖といいます。一方、合成がうまくいかないもとの鎖ですが、実際にはいくつかのDNAの断片を不連続的に合成し、それをあとでつなぐ操作をしていることがわかりました。この断片(フラグメント)は発見者の岡崎令治(1966年)によって岡崎フラグメントと呼ばれています。岡崎フラグメント自体は5'-末端から3'-末端へと合成していて、DNA合成の方向性は規則通りになっています。不連続的にDNAを合成する方のもとの鎖のことをラギング(遅れる)鎖と呼んでいます。
生物の形質発現
これまでに、生物学のセントラルドグマのうち、DNAの複製に関わる問題を扱ってきました。これからは、遺伝子DNAのもつもう1つの重要なはたらきである生物の形質発現について考えてみましょう。生物にはいろいろな性質があります。まず、大きさに目をむけてみましょう。映画でジュラシックパークが大流行したので、昔恐竜が住んでいたことに驚きをもつ人が増えたことでしょう。現在生息する生物の中で最大のものはゾウの仲間でしょう。それでは、最も小さい生物というと、カの仲間もその1つでしょう。このように、生物には大きさだけみても驚くほど大きいものから、驚くほど小さいものまでいろいろです。細胞の大きさはこの2つの種で大きく違いはないでしょうから、大きさの違うわけは全体の細胞数の違いということも皆さんおわかりでしょう。では、何故、細胞の数を変えてもよいような生命ができるのか?それは、ゾウやカ自身のもつDNAの中にその不思議が潜んでいて、その不思議を実体化しているものはまぎれもなくタンパク質です。人を例にとるなら、背が高い低い、足が長い短い、手が長い短い、指は太い細い、どれをとってもその形質を決めているのはタンパク質なのです。前にも、述べましたが、タンパク質は50個以上のアミノ酸でつくられていて、そのアミノ酸には20種類もの違ったものがあります。一番小さいタンパク質をつくる組み合わせであっても、20x20x20x・・・・・x20と50回20をかけるのを繰り返すと、2050通りにもなります。このようにタンパク質をつくる組み合わせはほぼ無限に可能なわけで、その中にはきっとゾウをつくるのに、大事なはたらきをするタンパク質やカをつくるのに大事なタンパク質があることでしょう。前にも述べたように、DNAはタンパク質をつくる暗号となっているのです。これから、どのようにして、DNAからタンパク質がつくられていくのか考えていきましょう。
転写
もう1つの核酸−RNA
生物学のセントラルドグマから明らかなように、DNAは直接にタンパク質をつくりません。間にRNAという別の核酸を介してタンパク質をつくります。前にDNAとRNAの違いを化学的に勉強しました。DNAのもつ糖はデオキシリボースで、RNAのもつ糖はリボースでした。それから、DNAの使う塩基はATGCでしたが、RNAではAUGCでした。DNAは二本の鎖でできていますが、RNAはふつう一本鎖です。DNAとRNAでは性質が大きく異なっています。DNAは二本鎖でできており、非常に安定です。例えば、95℃にしても二本鎖が一本鎖になるものの、壊れることはありません。弱アルカリ性にしても壊れません。ところが、RNAは弱アルカリ性にするだけで簡単に壊れてしまいます。このような安定性の違いを生命は見事に利用しているのです。DNAは子孫へと伝えていかねばならない生命の源ともいえる物質ですから、安定でなければなりません。一方、RNAはタンパク質をつくるために一時的に介在する橋渡しの役目をもっていますから、タンパク質をつくる役目を終えたのならば、すみやかに壊れることが必要なのです。ここで、RNAとDNAのどちらが先に地球上にあったのか考えてみましょう。これを考える1つの化学的な根拠は両者の糖の構造の違いにあります。RNAをつくるリボースとDNAをつくるデオキシリボースですが、特殊なのはデオキシリーボースの方です。天然にあるリボースをわざわざ還元してつくる必要があります。細胞内では、リボヌクレオチドをつくった後にそれをリボヌクレオチド還元酵素という特殊な酵素によってDNAにします。このことは、地球上に生命が誕生して以来、遺伝物質としてまず使われたのはRNAであり、その後、より安定なDNAを遺伝子とする生命世界がつくられたという考えを支持しています。いずれにせよ、RNAはその不安定性を生かして。DNAとタンパク質を結び付ける役割を今日まで持ち続けてきたのでしょう。
RNAの種類
表に示したように、RNAにはその働きの違う3つのRNAがあります。まず、mRNAはmessenger RNAの頭文字のmをとったもので、日本語では伝令RNAといいます。DNAの塩基配列を塩基の相補性の原理にしたがって、間違いなく読み取ってつくられたものです。この時に、これまで注意していなかった新しい約束事が生じます。それは、A=T,
G≡Cの塩基の相補性の原理の上にもう1つA=Uの塩基の相補性原理を加えなくてはなりません。RNAの塩基はAUGCでできているので、DNAにある塩基のTの代わりにUを使わなければなりません。したがって、DNAにAがきたらA=Uで、TがきたらT
= Aで、GCはきたらG≡Cの塩基の相補性の原理でDNAの情報をRNAに写し換えます。このDNAをRNAにすることを転写といいます。DNAの情報を間違いなく転写されたものが、mRNAであることになります。tRNAはtransfer
RNAの頭文字のtとったもので、日本語では転移RNAといいます。Transferとは例えば権利をある人から違う人へ移転させるような時に使う言葉で、移転をひっくり返して転移という言葉をこの場合つかっています。tRNAはタンパク質をつくる構成成分のアミノ酸を運んでくるRNAのことです。rRNAはribosomal
RNAの頭文字のrをとったもので、タンパク質をつくる場を提供しているRNAです。tRNAとrRNAの構造の詳細については、翻訳のところで話します。
転写の実際
DNAが転写されてmRNAができるときには、図のようにRNAポリメラーゼという酵素がはたらきます。ポリメラーゼのことはDNAポリメラーゼのところで(p )説明したように、RNAポリマーをつくる酵素の意味です。遺伝子DNAには、プロモーターとよばれるRNAポリメラーゼの結合する部位があります。そこから転写が始まります。材料はATP,
UTP, GTP, CTPとよばれるヌクレオチド−三リン酸です。遺伝子DNAには、RNAポリメラーゼが開始地点を認識する特別な塩基の配列があります(図)。また、転写を終了するDNAの特別な塩基配列ももっています。転写の終了を示す塩基配列のところまでくると、RNAポリメラーゼはDNAからはずれて完成したmRNAもRNAポリメラーゼからはずれます。転写の際にはDNA複製と同様に方向性があります。5'-末端から3'-末端へとリボヌクレオチドをつないでいきます。したがって、DNAの二本鎖のうちの一方すなわち3'---------------5'の向きのDNAの塩基を相補性原理によって転写していくことになります。図では、左から右へと転写するように示しましたが、図のDNAの右から左に5'---------------3'の鎖のDNAを転写することはないのだろうかと疑問をもつ人もいるでしょう。実は図に示したDNAの右側もしくは左側のどちらにRNAポリメラーゼが結合するかは、開始地点を認識する特別な塩基配列部分が決定しています。ふつう、その配列はDNAを左から読んだ場合または右側から読んだ場合のいずれか一方にしかありません。したがって、転写に使われるのは、DNAの二本鎖のうちの一方だけということになります。図に示したように、DNAの転写によって作り出されたmRNAはDNAの転写に利用されなかったDNAとよく似ていることになります。ただし、Tの代わりにUが使われているところが違っています。また、言うまでもないことですが、mRNAに使われている糖はリボースです。
転写の様式
真核細胞と原核細胞とでは、転写のやり方に違いがあることが知られています。まず、原核細胞では、図のようにDNAから直接にmRNAへと転写されます。しかし、真核細胞の遺伝子DNAには、mRNAになる部分−エキソンといいます−の間にイントロンとよばれる余計なDNA塩基配列をもっていることがわかったのです。真核細胞では、核の中でエキソンとイントロンを含んだDNAからそれに対応するRNAが転写によってつくられます。そして、転写されたRNAは、RNAプロッセッシング酵素によってイントロン部分が切り取られて成熟mRNAになります。このように、イントロン部分に相当するRNAを切り取ることをRNAスプライシングといいます。スプライシングとは材木などを継ぎ木することで、エキソンを継ぎ木することと覚えておいてください。原核細胞における転写に比べて、真核細胞ではめんどくさい転写をしているようにも思えますが、これがタンパク質合成にとって非常に経済的になることもあります。例えば、図のように、エキソン1〜2、エキソン3〜4、エキソン5〜6のそれぞれが似てはいるが違ったものであるとすると、そのmRNAのつくられ方は23=8通りとなり、同じ1つの線上にある遺伝子DNAから8つのよく似たmRNAを作りだせることになります。このような節約が真核細胞の進化の過程で有効に利用されているようです。
転写の調節因子
転写がおきるかどうかが細胞内におけるタンパク質合成の決定的な要素になっています。したがって、転写のスイッチをオンにするかオフにするかが細胞内の生命活動を左右する大切な調節になります。この目的のために、遺伝子DNAには、その特別の塩基の配列を認識して結合するタンパク質があることが見つかってきました。いちばん有名なDNA結合タンパク質は原核細胞のものです。図にlacオペロンという遺伝子DNAを示します。lacオペロンは調節遺伝子、制御部位ならびに構造遺伝子からできています。lacオペロンは
翻訳
さて、mRNAからどのようにしてタンパク質が作られていくのか議論していきましょう。DNA成分のうち、違いのある成分はATGCの塩基の部分です。RNAについても、AUGCの塩基の部分のみが違っています。DNAをmRNAに転写すると、そのDNAの塩基の部分のTの部分だけがUに置き換えられるだけで、塩基の相補性の原理でDNAをmRNAに間違いなく転写するものでした。それは、DNAのATGCからできているDNA言葉をRNAのAUGCでできたRNA言葉に変換するものです。RNA言葉で違うところはAUGCの4つしかありません。タンパク質をつくるアミノ酸は20種類ありますから、4つの違った"RNA言葉"では、20種類の"アミノ酸言葉"を区別・識別することはできません。何か違ったしくみを見い出さなければなりません。この問題に取り組んでいた当時の研究者たちはおそらくこの方法しかないであろうと想像していました。それは、RNAの塩基の3つの並びがあるアミノ酸に対応しているのではないかという予測でした。
塩基の1つの並び=4通り
塩基の2つの並び=4x4=16通り
塩基の3つの並び=4x4x4=64通り
であるように、20種類の違ったアミノ酸を区別・識別するには、RNAの塩基の3つの並びが必要だからです。塩基の2つの並びでは、まだ20種類のアミノ酸を説明するには不足だからです。この予測は見事に当たっていました。
遺伝暗号の発見と解読
転写されたRNAの塩基の3つの並びがあるアミノ酸を指定してくるのでは?というアイデアを実験的に確かめることが、1960年代にさかんにおこなわれました。そのいくつかの実験を紹介しましょう。1961年にニーレンバーグらはDNAの塩基AAAがどのアミノ酸になるかを報告しました。DNAの塩基配列AAAはmRNAではUUUになります。そこで、塩基としてUだけをもつポリウラシルRNA(UUUUUUU・・・・・)を人工的に合成し、大腸菌から抽出した無細胞タンパク質合成系を加えた試験管の中でどのようなポリペプチドができるかを調べました。その結果、フェニルアラニンだけから成るポリペプチドがつくられてきたのです。このことは、UUUがアミノ酸のフェニルアラニンに対応する暗号であることを示しています。しかし、UUUの場合は最も単純な暗号の1つであり、他の暗号の解読には当時の科学者たちのすばらしいアイデアが必要でした。コラーナはACACACACAC・・・・・・・・とACの繰り返しからできたmRNAを合成し、ニーレンバーグと同じくどんなタンパク質ができるか調べました。図のようにACACACACAC・・・・・・・・のmRNAの場合にはACAという読み方とCACという読み方があります。事実、できるタンパク質の中には、トレオニンとヒスチジンの2つのアミノ酸がみられました。ACAとCACのうち、どちらかがアミノ酸のトレオニンもしくはヒスチジンを指定してくることはわかりますが特定することはできません。次に、CAACAACAACAACAA・・・・・・・の繰り返しのmRNAを合成して、そのmRNAからつくられるアミノ酸をしらべてみました。図のようにこのmRNAの場合には、読み方はCAA、AAC、ACAの3通りあります。このときつくられるタンパク質には、グルタミン、アスパラギン、トレオニンが含まれていました。したがって、上記の2つの実験で共通して使われたアミノ酸とはトレオニンであり、共通の塩基の並びはACAですから、ACAはトレオニンの暗号であることがわかります。このようなパズルを解くような実験の繰り返しから、遺伝暗号が解読されました。塩基の3つの並びのことを暗号の英語そのものコドンといいます。それは塩基3つの並びになっているので、トリプレット(triplet)ともいいます。1966年までには、64通りある遺伝暗号のすべてが解読され、植物、動物でも共通であることがわかりました。それを普遍遺伝暗号といいます。
表にその暗号表を示しています。アミノ酸の名前と英語3文字略号、さらにアミノ酸の側鎖の構造も加えています。この遺伝暗号表を漫然とながめるのではなく、気付いたことがらに素直に驚き、疑問をもつことが大切です。1960年代の分子生物学の科学者たちが驚いたであろうことがらを列挙してみましょう。
1.遺伝暗号には重複がある。
遺伝暗号はAUGCの塩基の組み合わせ−4x4x4=64通りあるので、20種のアミノ酸以上あります。すなわち、違う遺伝暗号が同じアミノ酸を指定してきます。それを遺伝暗号の重複といいます。表に重複の数と対応するアミノ酸を示しています。
2.遺伝暗号に重複のないものもある。
メチオニン(AUG)とトリプトファン(UGG)には重複がありません。このうち、メチオニンはタンパク質合成開始のアミノ酸になっています。上記の人工合成RNAを使った実験で、RNAの最初にAUGをつけると、タンパク質合成がさかんになることがわかってきたのがこの発見のきっかけでした。実際のタンパク質の一次構造のN−末端アミノ酸がメチオニンであることも開始暗号がAUGであることを示唆していました。この詳しいしくみについては、あとで述べましょう。
3.アミノ酸を指定してこない遺伝暗号が3つある。
これはUAA、UAG、UGAであり、終止コドンといい、タンパク質合成を停止する暗号です。
4.アミノ酸の構造の類似したものを同じ縦の列にうまく並べている。
前にも述べましたが、アミノ酸には側鎖Rの部分が水に溶けやすいもの(親水性)と水に溶けにくいもの(疎水性)のものがありましたね。例えば、縦の左側一列目には、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリンというように、側鎖が疎水性のアミノ酸を統一して並べています。しかも、メチオニン以外は遺伝暗号の重複があります。例えば、バリンの場合には、遺伝暗号の3文字目が何がきてもバリンを指定してくるようになっています。後で述べますが、遺伝子DNAは安定であり、複製によって間違いが生じることはごく稀なのですが、哺乳動物では109塩基対のDNAで1個くらいの複製ミスがおきます。その塩基配列のミスがmRNA上の遺伝暗号の3文字目に現われたとすると、バリンを例にとれば選んでくるアミノ酸に変わりがないことにあります。もしも、そのミスがmRNA上の遺伝暗号の一文字目におきたとしても、バリンがメチオニン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニンになるので、アミノ酸自体そう大きく変わらないアミノ酸を選べる工夫がされていることになります。遺伝暗号表には、生命のもつ見事な設計がなされているっことに気付きます。しかし、これも地球誕生当時から40億年もの永年の年月の間に生命が試行錯誤の繰り返しによってあみだしたものともいえます。
このようにして、他の列のアミノ酸もながめてみてください。例えば、左から2番目の縦の裂には、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリンほど側鎖が疎水性ではないが、極性の比較的小さいアミノ酸を配していますね。縦3裂目には、側鎖に塩基性の極性基をもつヒスチジン、リジンや側鎖に酸性の極性基をもつアスパラギン酸、グルタミン酸を並べていますね。縦4裂目は側鎖に塩基性の強い極性基をもつアルギニンが重複6回で登場します。一番単純なアミノ酸グリシンが最後に登場です。この機会にアミノ酸の1つ1つの構造と特徴に親しみをもつようにしてください。生物の形質をきめるものはタンパク質中の20種のアミノ酸にかかっているのですから、生命のもつ面白さはこの中にあるはずなのです。
タンパク質合成の機構
遺伝暗号によってRNA上の塩基の3つの並びがあるアミノ酸に対応していることはわかりました。しかし、どのようにしてタンパク質合成が実行されるのかわからないことばかりですね。このなぞを理解するには、タンパク質合成のための装置の1つ1つをよくながめてみる必要があります。
tRNA
アミノ酸を運んでくるRNAがtRNAと呼ばれるRNAです。最初に構造が決定されたのはアラニンを運んでくるアラニンtRNAでした。ホーリー(1965年)は7年もの歳月を費やしてその構造を決定しました。tRNAは70〜90塩基からできた比較的小さいRNAです。tRNAの塩基にはAUGCの他に図に示したように、化学修飾された塩基も含まれています。アラニンtRNAの場合には、9つの化学修飾された塩基が含まれています。平面的にその構造をみると三葉のクローバー型に例えられます。図にその構造を示しています。明らかに丸い葉のようにみえるところが3つあり、そこは丸い構造であることから、ループといいます。図にある上部の末端はクローバーの茎のようにみえます。何故このような構造をとれるのでしょうか?それは、RNAの塩基の中で塩基の相補的結合の場合と同様に水素結合によってRNA分子内の塩基が結びつくからです。特に、化学修飾された塩基がこのループ構造をとるのに大切なことがわかります。図の下のループには、アンチコドンといって遺伝暗号コドンと塩基並びが全く相補的になっている塩基の3つの並びがあります。例えば、DNAからRNAに転写されるときには、
DNA 3'-ATGCCGATTCGATTAACC-5'
RNA 5'-UACGGCUAAGCUAAUUGG-3'
のように、DNAの左側が3'-末端であれば、RNAの左側が5'-末端になります。これと同じようにRNAとRNAが結合するときも同じ様式になります。
アンチコドン
tRNA 5'--------(A)GC------3'
mRNA 3'--------(U)CG------5'
コドン
となり、mRNAのコドンは右から左に読むことになります。要するに、アンチコドンとコドンは塩基が相補的になっています。表からGCUがアラニンであることはおわかりですね。mRNAのコドンとtRNAのアンチコドンは塩基が相補的にぴったりの関係にあるのです。これが遺伝暗号コドンを正しく認識する役目になっています。次の問題はtRNAはどこにアミノ酸をくっつけるのか?ですが、実はtRNAの3'-末端のリン酸の-OHにアミノ酸を結合します。図のように、アミノ酸をATPのエネルギーを使ってアデニル化アミノ酸として、それをtRNAに転移させます。このようにして、アミノアシルtRNAがつくられます。違った構造をもつアミノ酸をそれぞれのtRNAどのようにして結合させるのでしょうか?それは20種類の違ったアミノアシルtRNA合成酵素がはたらいてアミノアシルtRNAができることがわかっています。例えば、トリプトファンをtRNAに結合させる酵素では、トリプトファンの側鎖とそのtRNAの構造を酵素タンパク質がそれらの構造を鋳型のようにして認識し、トリプトファンを結合するtRNAをつくるのです。tRNAのアンチコドン部分は塩基配列構造が違いますから、64のコドンのうち終止コドン3つを除いた61種類のコドンに対して61種類のアンチコドンをもった違う種類のtRNAが理論的に存在することになります。しかし、実際には40〜60種のtRNAしか知られていません。アンチコドンの一文字目を共通させることによってtRNAの数を減らすしくみがあるようです。アンチコドンの一文字目はコドンでいうと三文字目です。遺伝暗号表のところでも述べましたが、一般にコドンの三文字目は何が来ても同じアミノ酸になることが多いのです。
タンパク質合成装置−リボソーム
タンパク質を合成するには、どんなしくみでおこなわれるのでしょうか?20種類のアミノ酸を結合させたそれぞれのアミノアシルtRNAのアンチコドンがmRNAの塩基配列を3文字のコドン単位との間で相補的にかみあい、アミノ酸を次々につないでのです。その反応の場がリボソームと呼ばれる装置です。リボソームはおよそ60%のRNAと40%のタンパク質でできた巨大高分子です。リボソームを構成しているRNAをリボソームRNA(rRNA)といいます。mRNA、アミノアシルtRNAのような高分子を結合させてタンパク質合成をおこなうためには巨大高分子が必要です。リボソームは大粒子と小粒子からできています。原核生物と真核生物のリボソームには大きさに違いがあります。
図のように、原核生物のリボソームは分子量が2,500,000、真核生物では分子量4,200,000です。超遠心分離による沈降定数でその大きさを示すと、原核生物、真核生物のリボソームはそれぞれ70Sと80Sになります。原核生物のリボソームは50Sの大粒子と30Sの小粒子からできています。一方、真核生物のリボソームは60Sの大粒子と40Sの小粒子からできています。原核生物と真核生物のリボソーム粒子に含まれるRNAには類似性がありますが、真核生物のリボソームには、原核生物のものよりも複雑になっています。一方、原核生物と真核生物のリボソームを構成するタンパク質にはあまり類似性がないことが知られています。RNAが独特の立体構造をつくることはtRNAのところで説明しましたが、リボソームを構成するRNAにタンパク質合成を触媒する能力があるものと思われています。
タンパク質合成の実際
図に示したように、リボソームの小粒子にはmRNAとtRNAが結合します。大粒子にはアミノ酸をつないでタンパク質をつくるはたらきをしています。小粒子には、P部位とA部位と呼ばれる2箇所のtRNA結合部位があります。tRNAにはアミノアシルtRNAの他にもう1つのtRNAがあります。それはペプチジルtRNAです。ペプチジルという言葉はペプチドといってアミノ酸をつなげたタンパク質より短いものからきています。P部位とはこのペプチジルtRNAが結合するところです。A部位とはアミノアシルtRNAが結合するところです。遺伝暗号表のところで話したようにタンパク質の合成はアミノ酸メチオニンから始めます。メチオニンtRNAがいくつかの開始因子と結合してリボソームの小粒子のP部位に結合します。すると、小粒子にmRNAが結合して、mRNAをスライドさせながらメチオニンのコドンAUGをさがしていきます。AUGがみつかると、メチオニンtRNAのアンチコドンとコドンAUGとの間で塩基の相補性の結合がおき、開始因子がメチオニンtRNAから解離します。そこに大粒子が結合し、mRNA上の次のコドンとアミノアシルtRNAのアンチコドンがぴったり一致するものがA部位に結合します。そして、メチオニンは次のアミノアシルtRNAの方へ転移してペプチド結合がつくられます。そうやってできたものがペプチジルtRNAです。ペプチジルtRNAはP部位に移り、次のアミノアシルtRNAがやってきてそのペプチドを次のアミノアシルtRNAに移していきます。この反応が繰り返されて、mRNAのコドンに一致したアミノ酸をつないでタンパク質にしていくのです。図に示したように、mRNAのコドンの読み方は3通りあります。mRNAのコドンの読み方で全く違ったタンパク質ができることにもなります。タンパク質の合成をメチオニンから行なうと決めることで、その読み方が3通りのうちの1つだけに限定されます。タンパク質合成の終了は終止コドンによって識別されます。mRNA上にUAA、UAG、UGAのどれかがくると、そこに遊離因子と呼ばれるタンパク質がA部位に結合します。ペプチジルtRNA上の出来上がったタンパク質はtRNAから離れて、リボソームの大小粒子、mRNA、tRNA、遊離因子ともにバラバラになってタンパク質合成が完了します。
9酵素
6/04/02(N。「)6/06/02(N氤)
代謝に関わる酵素
生体内の温度は恒温動物では35〜37℃ぐらいですが、風呂の温度41〜42℃よりもやや低めの温度です。植物の場合には、外気温度に影響されますが、日本では夏に40℃をこえることはめったにありませんから、風呂の温度以下と考えてよいでしょう。35〜37℃は温度として高いでしょうか?それとも低いのでしょうか?自動車のエンジンを考えてみてください。自動車のエンジン内では、ガソリンを爆発させてそのエネルギーを動力エネルギーにかえています。エンジンの内部の温度は数千℃になっていますから、それに比べれば、生物の温度ははるかに低いですね。しかし、世界の陸上競技の100mのトップランナーたちは瞬間的には平均時速40km/hで走ることができます。アフリカにいる動物チーターは110km/h以上で走れるといいますから、自動車顔負けです。どうして、生物は低い温度でこのような仕事ができるのでしょうか?それは細胞内の代謝の化学反応には、自動車のエンジンにはない酵素という触媒が用いられているからです。触媒という言葉は聞き慣れない言葉かもしれませんが、化学反応の速度を高める物質をいいます。ふつうの化学工場で行なわれている化学反応にもよく触媒を使っています。触媒は化学反応の速度を早くしますが、自分自身は何ら変化を受けません。
図のように、Xという物質がYという全く構造のちがう物質に変化するとき、必ず一度エネルギー状態をあげてやらないといけません。そのエネルギーの上がった状態をむずかしい言葉ですが、遷移状態といいます。そのエネルギーレベルの差のことを活性化エネルギーといいます。ふつう触媒はこの活性化エネルギーを小さくして、化学反応速度を速めています。酵素はタンパク質でできています。酵素が触媒になると、その活性化エネルギーをより小さくすることができるのです。なぜ酵素タンパク質はこの活性化エネルギーを小さくするのでしょう?酵素の触媒する物質のことを基質といいます。酵素のことを英語でEnzyme、基質のことをSubstrateといいます。酵素反応を式にすると、
E+SフES→E+P
ここで、E: Enzyme(酵素)、S: Substrate(基質)、P: Product(生成物)です。
基質Sは必ず酵素Eと複合体ESをつくります。そして基質が酵素タンパク質の大きな高分子の基質結合部位に結合することにより、活性化エネルギーを小さくすることが可能となるのです。まず、酵素がいかに効率よく化学反応を触媒するか少し漫画的かもしれませんが紹介しましょう。今基質の○と△から生成物□ができる化学反応を例に考えてみましょう。化学反応式であらわすと、
○+△フ□
になります。図のように、○と△をビーカーの水の中に溶かしてみましょう。○と△から□ができるには、○と△は衝突しなければ反応は起きませんね。しかし、ビーカーの水溶液の中では○と△はお互いに運動はしていますが、衝突の確率は非常に低いのです。では、その確率をあげるよい手立てはないものかとなります。1つはビーカーに熱をかけることでしょう。そうすると、水溶液中の○と△の運動が早くなり、衝突の確率はあがるでしょう。それでも簡単には○と△から□はできないのです。ところが、酵素タンパク質の場合には、○と△がすっぽり収まる基質結合部位をもっています。しかも、この酵素タンパク質は○と△が居ながらにして接するように設計されています。つまり、衝突の確率を1にするように設計されているのです。しかも、○と△が酵素タンパク質に結合すると、酵素タンパク質の基質○と△がくっついた部分の構造を□にかえるような局所的な変化がおきて○と△から□ができやすいように、はたらいてくれます。このようなタンパク質の立体構造の局所的変化を引き起こすにはタンパク質分子が大きくなければなりません。

図に書いているように、タンパク質分子の基質結合部位から遠くはなれた部位がいくつか集まって応力のようなものをはたらかせるのです。タンパク質分子は決してかちかちの固定したものではなく、常にゆらゆらしたゆらぎをもっています。柔軟性のある分子なのです。よって、基質結合部位を○と△から□にかえるようなことができるのです。この議論と酵素が活性化エネルギーを下げることとどう結びつくのでしょうか?
今、セリンプロテアーゼを例にとって考えてみましょう。酵素の名前をつけるときには英語で語尾に-ase(アーゼはドイツ語読みです。日本人は医学や化学を明治時代にドイツから取り入れたので、アーゼと言ってます。ちなみにアメリカ人はエイスと発音します)をつけるように決まっています。プロテアーゼとはタンパク質(protein)を分解する酵素のことです。タンパク質はアミノ酸がペプチド結合により長く連なったものです。そのペプチド結合を加水分解反応によって切断するのがプロテアーゼです。反応を簡略にするために、基質としてアミノ酸がいくつかつながったペプチドにして話しをすすめます。セリンプロテアーゼの1つキモトリプシンは、245個のアミノ酸からできた酵素タンパク質です。その活性の中心には195番目のアミノ酸であるセリンの側鎖、51番目のアミノ酸であるヒスチジンの側鎖があり、酵素の基質と相互作用をしています。前に述べたように、基質から生成物になるときには、遷移状態というエネルギーの高い状態になる必要がありますが、実は基質分子は形や電子分布のちがういくつもの中間体をつくりながら最終生成物になっていきます。そのうち最も不安定なエネルギーの高いものが酵素の結合部位に結合しやすくなっています。この結合が基質分子の遷移状態のエネルギーを低くすることになります。
図のように、基質ペプチドが活性中心に結合し、いろいろな中間体基質をつくりながら、基質ペプチドを加水分解していくことをみてください。このとき重要なことは、加水分解をうけて2つに切断されたペプチドが酵素から離れたならば、酵素はもとの状態にもどっています。酵素自体は何ら変化をうけていません。そして、次にまた同じ基質ペプチドが同じ場所に結合し、同じ反応をくり返すのです。ふつう、酵素は1秒間にこのくり返しを1000回以上行なっていることが多く、10000回になることもまれではありません。このくり返し、回転のことを酵素の代謝回転といます。生体内の化学反応がいかにすばやくおこなわれているかがわかります。
酵素がはたらかないと、生命活動は成り立ちません。人の栄養のところで、ビタミンの話しをしました。ビタミン欠乏症という病気を知っていますか?例えば、ビタミンB1が欠乏すると、脚気という多発性神経炎という病気になります。
この原因は、ビタミンB1であるチアミンピロリン酸という物質がピルビン酸デヒドロゲナーゼとよばれる酵素のはたらきを助ける補酵素としてはたらいていることと関係しています。ビタミンB1が欠乏すると、その酵素のはたらきが悪くなり、エネルギーを体内で生み出せにくくなるために起きるのです。遺伝のところでも述べますが、先天性の代謝異常をおこす病気もたくさんあります。この場合の多くは、突然変異によって酵素タンパク質がはたらかなくなるためにおきます。フェニルケトン尿症では、図(板書参照)のようにアミノ酸のフェニルアラニンをチロシンという別のアミノ酸に代謝するフェニルアラニンヒドロキシラーゼがはたらかないために、体内にフェニルピルビン酸が蓄積し、知恵遅れをおこしてしまいます。酵素のはたらきが生命活動を遂行するのに欠かせないものであることがわかります。これから生命科学分野で勉強する皆さんにとって、酵素の勉強は大切な1つです。英語を学ぶのに、英単語が必要なように、生命活動の勉強には、代謝の1つ1つを勉強し、その代謝反応を触媒する酵素の1つ1つを勉強していくことが必要です。1つ1つの酵素が生体内でどんな意味をもつのか、その酵素がなかったら、人は生きていけるのか?生きていけるとしてもどんな病気を引き起こすのだろうか?などを考えながら勉強していけば、酵素についても興味がわいてくるかもしれません。
これは昨年の学生諸君に覚えてもらうために作ったものです。色が赤になっています。青に戻すのがたいへんでそのままです。少しずつ酵素の名前を覚えていってください。
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| リボヌクレオチドレダクターゼ |
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チオレドキシンという酵素も要る |
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この酵素が不可逆反応なので、アセチルCoAは糖の方へいけない |
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| イソクエン酸デヒドロゲナーゼ |
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前述の酵素はNADHが生成するが、この酵素はNADPHが生成する。 |
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下の酵素より、Km(グルコース)小さい。0.1 mM |
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肝臓に多い。Km(グルコース)大きい。10mM 血清のグルコース濃度は5.5mM |
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アルドースリアーゼを短く言ったもの |
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ムターゼとはmutase-mutation は変異という意 |
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この酵素がはたらくとグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼのところでつくられたNADHが最酸化されて、解糖系が進行できる。 |
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p87名前なし |
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p87名前なし |
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| グルタミン酸−オキサロ酢酸アミノトランスフェラーゼ | グルタミン酸+オキサロ酢酸→アスパラギン酸+α-ケトグルタル酸 |
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p109名前なし |
| グルタミン酸−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ | グルタミン酸+ピルビン酸→アラニン+α-ケトグルタル酸 |
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p109名前なし |
| L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼ |
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タンパク質のPhe-, Leu-を加水分解 |
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タンパク質のLys-, Arg-を加水分解 |
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タンパク質のTyr-,Trp-, Phe-, Leu-を加水分解 |
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デンプン+H2O→マルトース |
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マルトース+H2O→2α-D-グルコース |
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スクロース+H2O→α-D-グルコース+β-D-フルクトース |
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ラクトース+H2O→α-D-グルコース+β-D-ガラクトース |
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| グリコーゲンホスホリラーゼ |
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酵素の分類 (教科書p.50参照)
1.酸化還元酵素
2.加水分解酵素
3.転移酵素
4.リアーゼ
5.イソメラーゼ
6.リガーゼ
ビタミンと補酵素(教科書p.49参照)
金属を必要とする酵素(教科書p.49参照)
動物は従属栄養生物であり、生命活動のためのエネルギーのすべてを栄養物質として他に依存しなければなりません。生命のはじまりで話してきたように、従属栄養生物が現在生息できるのは、光合成生物をはじめとする独立栄養生物の存在があるおかげです。
栄養物質の特性
さて、栄養物質とはどのようなものなのか考えてみましょう。よくいう三大栄養素という言葉があります。それは、糖質、脂質、タンパク質のことです。前に勉強したように、これらは生体を構成するのになくてはならない物質でした。その1つ1つの特徴については、2章に戻ってもう一度見直してみてください。糖質、脂質、タンパク質には1つの共通な特性があります。糖質を構成する代表的な単糖−グルコース(C6H12O6)、脂質を代表する脂肪酸の1つ−パルミチン酸(C16H32O2)、タンパク質を構成するアミノ酸の代表として−L-アラニン(C3H7NO2)のいずれも炭素(C)に水素(H)がたくさんついた還元された物質です。還元された物質はエネルギーを多くもっています。どれにエネルギーがあり、どれにエネルギーがないのか見分けがつかないという人は、その物質を燃やしてみるとわかります。燃やすということは、酸素(O2)と反応させて化学反応を起こすかということと同じことです。
C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O
C16H32O2+23O2→16CO2+16H2O
C3H7NO2+ 3O2→3CO2+2H2O+NH3
のようにどれも酸素と反応することがわかります。
それでは、CO2やH2Oはエネルギーがあるのかというと、これらは酸素で飽和されていますから、もうこれ以上酸素とは反応しません。したがって、もっているエネルギーはわずかであることになります。お酒を飲みすぎると、太るのかどうか、お酒を飲んでも太らないという結論は正しいでしょうか?お酒の成分−エチルアルコール(C2H5OH)は酸素と反応させてみると、
C2H5OH+3O2→2CO2+3H2O
で酸素と反応しますから、エネルギーをもった化合物であることがわかります。お酒−エチルアルコールを飲んでもそれはエネルギー源になり、太るもとになるわけです。三大栄養素の糖質、脂質、タンパク質はいずれも物質内にエネルギーを貯えた物質であることがわかります。このように、物質内にエネルギーが化学エネルギーの形で貯えられているのです。
図のように、細胞は三大栄養素の糖質、脂質、タンパク質を取り込み、酸素と反応させてエネルギーを取り出します。そのエネルギーは3章で述べたように、ATPという細胞内のエネルギー通貨の形で貯えられて、必要に応じて利用されています。
消化と吸収
糖質、脂質、タンパク質のうち、多糖質やタンパク質は高分子であり、そのままの形では膜を通過できません。したがって、取り込んだ多糖質やタンパク質それに脂質もその構成成分にまで加水分解してやる必要があります。これを消化といいます。消化の過程は動物では、胃や小腸のような消化管でおきるのですが、図にそれらの消化に関わる酵素とその化学反応を示しています。糖質、脂質、タンパク質はそれぞれの構成単位のグルコース、脂肪酸、グリセリン、アミノ酸にまで消化されたのち、細胞内に吸収されます。このうち、グリセリンは細胞膜を拡散によって通過できます。グルコースとアミノ酸は水に溶けやすい物質ですから、膜にはなじみにくく、能動輸送で細胞内に取り込まれています。
人の栄養
次に人は三大栄養素の糖質、脂質、タンパク質をどのような割合でとっているのかみてみましょう。人の栄養を考えるときにはエネルギーの単位として、カロリー(cal)を用います。1calとは1cm3の水を1℃あげるのに必要なエネルギーのことです。糖質とタンパク質は1gあたり4000cal(4
Kcal)のエネルギーをもっています。一方、脂質は1gあたり9000cal(9 Kcal)のエネルギーをもっています。1日に体重50kgの人はふつう2000
Kcalのエネルギーを必要としています。表に人の三大栄養素のエネルギー比率を示しました。上記の人は2000 Kcalの必要エネルギーを糖質として62%、脂質として25%、タンパク質として12%くらいの割合で毎日とり続けています。人の場合には、糖質はデンプンとしてとっています。脂質やタンパク質は肉や魚から主に取り入れています。このように人は植物由来、動物由来の栄養をバランスよくとっていることになります。人は何故三大栄養素を糖質として62%、脂質として25%、タンパク質として12%というような割合でとるのでしょうか?これに答えるのは簡単なことではありません。しいてあげるならば、糖質を一番多くとるわけは、3つの栄養素の中で糖質は即エネルギーになりやすく、脂肪酸にもアミノ酸にも変換できる一番柔軟性に富んだ栄養素であることでしょう。その点、脂質は糖質には変換されにくく、柔軟性に乏しいので、量的に少なくしているのでしょう。タンパク質は生体をつくる材料としての色彩がつよく、すぐに使えるエネルギーには向いていない栄養素なので、一番少ない割合にしています。このような議論は三大栄養素の代謝のところでもう少し詳しく話しましょう。さて、細胞が生きていくためには、三大栄養素だけでは不十分です。ミネラル(無機質)も必要です。さらに、ビタミンも必要です。表にそれらの役割を示しました。これらの必要性も代謝のところで、また話したいと思います。
2) 呼吸と合成
呼吸とは
呼吸という言葉は、生物が息をして、すなわち呼吸をして酸素を体内に取り入れて、体内で発生した二酸化炭素を吐き出していることだととらえられがちです。しかし、酸素は体内のどこに行って、吐き出したものが何故二酸化炭素なのでしょう?これは、生物の体内で化学反応が起きていることを物語っています。呼吸を広義にとらえると、栄養物質を取り入れた酸素で二酸化炭素と水にまで分解し、発生する二酸化炭素を吐き出すとともに、得られたエネルギーを取り出すプロセスであるといえます。
代謝とは
細胞の中では、様々な化学反応が同時にいたるところで起きています。細胞質や様々なオルガネラの中でも同時進行で様々な化学反応が起きています。これから、細胞内で起きる化学反応のことを考えてみましょう。細胞内における化学反応のことを代謝といいます。代謝とは新陳代謝という言葉のように、古いものが去って、新しいものがこれに代わるといういれかわりのことをいいます。図に示したように、細胞内では、
A→B→C→D→E→F→G→Hというふうに物質が化学反応を受けて常に変化しています。A→Bをみると、AはBに絶えず変化しています。そしてそのもとのAも常に新しいものが供給されています。このように、細胞内では、物質は絶えず化学反応により変化しているわけで、細胞内の化学反応のことを代謝と呼ぶのはまさに当を得ているかもしれません。代謝は決して一本の系列の化学反応でできているのではなく、図のように、O→P→Q→R→Sという他の化学反応の系列がDに流れ込んだり、V→W→X→Y→Zの化学反応系列がFから出ていったり非常に込み入ったものです。これらの代謝のさまをよく高速道路のインターチェンジに例えることがあります。高速道路のインターチェンジには自動車、トラックやオートバイなど様々な車が流れ込み、あるものは北から南へ、あるものは東から南へ、あるものは西から北へとインターチェンジを通っていきます。その流れは瞬間、瞬間で決して同じではなく、絶えず変わっています。代謝はそのような動きのあるものだと理解してほしいのです。高速道路でよく渋滞することがあります。その渋滞は、ある高速道路のインターの出口に車が殺到して、料金所のところが車でいっぱいになりさばけなくなることが原因になっていることが多々あります。そうすると、車は高速道路の本線にもあふれだし、高速道路がノロノロ運転になってくるのです。車がノロノロ運転になっている料金所のところの影響がひいては高速道路の本線にまで影響してきます。細胞内の化学反応でも同じことが言えて、化学反応の速度が一番遅いところが、全体のスピードを決めてしまうことになります。このように、代謝を生体内のさまざまな物質の流れとしてとらえてみてください。
異化代謝と同化代謝
図のように、代謝には異化代謝と同化代謝があります。異化代謝と同化代謝ともに古い言葉です。異化とは分解のことで、同化とは合成のことをいいます。異化代謝では、栄養物質を呼吸によって取り入れた酸素で酸化し、二酸化炭素と水にまで分解します。このときに、生じるエネルギーをATPにします。逆に同化代謝では異化代謝でできたエネルギー通貨のATPを用いて細胞に必要な物質の合成が行なわれています。
呼吸代謝
これから、三大栄養物質の糖質、脂質、タンパク質がどのようにして細胞内で代謝されて、エネルギー通貨であるATPにかわっていくかをみていきたいと思います。3章でもふれましたが、生物は昔酸素のなかった地球に誕生しましたから、呼吸には2つの様式があります。それは3章でも述べましたが、
1.C6H12O6→2C3H4O3+4H+2ATP ・・・・・・無気呼吸
グルコース ピルビン酸
2.C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O+38ATP ・・・・・・有気呼吸
グルコース
です。有気呼吸生物では、図のように、無気呼吸生物がもっていた解糖系とよばれる代謝系のうえにさらにクエン酸回路と電子伝達系という酵素系を獲得して酸素を積極的に利用してグルコースを二酸化炭素と水にまで分解して、エネルギーを飛躍的に生み出せるようになったのです。このことは、有気呼吸生物は無気呼吸生物と無関係に誕生したのではなく、無気呼吸生物の中からさらに進化したものが現在生息する多くの有気呼吸生物に進化してきたことを示しています。
解糖系のしくみ
栄養物質の代謝を考えるときには、グルコースを材料に考えるのが基本です。人の栄養のところで話したように、糖質は動物がいちばん多く取り入れている栄養素です。さらに、タンパク質をつくるアミノ酸、脂質の成分、脂肪酸、グリセリンも結局は、同じ代謝経路に流れ込んできます。まず、無気呼吸生物がもっていた解糖系からみていきましょう。解糖系とは、
C6H12O6→2C3H4O3+4H
グルコース ピルビン酸
で示すように、炭素6から成るグルコースを炭素3から成るピルビン酸2分子に分解する代謝系です。
図のように、9段階の代謝系をもっていて、9つのちがった酵素がその化学反応を触媒しています。これらの酵素はすべて細胞質にあります。オルガネラをもたない無気呼吸生物の原核細胞にも解糖系には2つの重要な反応が含まれています。それは−1.グルコースを二分するための準備段階 2.エネルギーをATPとして回収する段階−です。グルコース分子は安定な分子で簡単には分解されません。そこで、ATPのエネルギーを2回使って、グルコースをフルクトース-1,6-二リン酸にします。ここまでグルコースを代謝させると、フルクトース-1,6-二リン酸(C6)は二分されやすくなり、ジヒドロキシアセトンリン酸(C3)とグリセルアルデヒド-3-リン酸(C3)に分解されます。ジヒドロキシアセトンリン酸は簡単にグリセルアルデヒド-3-リン酸に替わりますから、これ以降は2倍のグリセルアルデヒド-3-リン酸となって代謝がすすみます。そして、6の段階、9の段階で2ATPずつ回収され、合計4ATPがつくられることになります。解糖系は私たちの身の回りの商売の話しとよく似ていますね。商売をするには、投資が必要です。何か商品を仕入れるにも、まとまった資金が必要ですね。そうやって、商品を仕入れて、うまく売れればやっと儲け、利潤が出ます。解糖系もまさしくその例であり、4ATPの売り上げから投資した2ATPを引いた残りが本当の儲け、利潤になります。すなわち、解糖系では、2ATPがエネルギーの利潤になっています。でも、この話しで、どうして儲けが出たのだろうか?と考えた人は目ざとい人です。商売にもうまく儲けるためのコツがあるように、解糖系でも利潤を生み出すからくりがあります。図をみてください。解糖系の5段階目の化学反応を触媒している−グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)−という酵素は無機のリン酸Piを取り入れることにより、1,3-二ホスホグリセリン酸をつくっています。ここにPiを使わずATPを使っていたら、この商売は成り立ちません。
発酵
乳酸発酵やアルコール発酵という言葉を耳にしたことがあると思います。乳酸発酵は解糖系の9ステップにさらに1ステップ追加したものですし、アルコール発酵はさらに2ステップ追加したものであり、基本的に解糖系と同じことです。乳酸発酵もアルコール発酵も上記の5段階目の化学反応で生じるNADH(上図)を使って乳酸、エチルアルコールをつくりますから、見かけの酸化還元反応はないことになります。酸素がないと、どんどんNADHがたまったままで、反応が行き詰まってしまうはずですが、無気呼吸生物は乳酸発酵やアルコール発酵という方法で、5段階目の化学反応で生じるNADHをもとの形にしているのです。
酸化的呼吸代謝
有気呼吸生物の獲得したクエン酸回路と電子伝達系の酵素系はすべてミトコンドリアの中にあります。ミトコンドリアは細胞内でいちばん酸素を消費するオルガネラですが、その酸素は栄養物質の酸化に使われています。このうち、クエン酸回路(TCA回路)を触媒する酵素系はミトコンドリアのマトリックスにあり、電子伝達系の酵素系はミトコンドリアの内膜に複合体をつくり結合しています。
酸化的分解の仲立ち−NADH
クエン酸回路に話しをすすめる前に、解糖系のところで話したNADHについて、もう一度くわしく考えてみましょう。NADHとはヌクレオチドがリン酸エステル結合で2つ結合したもので、1つの塩基がアデニンで、もう1つは塩基の代わりにニコチン酸アミドをもったものです。ニコチン酸アミドの部位は、酸化還元によって図のように変化します。ニコチン酸アミドの部位が酸化されたものをNAD+といい、これが2電子還元されて、NADHになります。したがって、NAD+がNADHに還元されるときには、
NAD++2HフNADH+H+
になります。NADHは生体内の酸化還元中間体として重要な物質です。電子を受け取ったり。相手に受け渡ししたりすることができます。
クエン酸回路(TCA回路)のしくみ
クエン酸回路を図に示しました。反応@〜Hを最初の反応から右回りにつけてください。クエン酸回路は解糖系で生じたピルビン酸をアセチルCoAにするところから始まります(@)。この反応はピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体によって触媒されますが、図のように、3つのちがったビタミンを補酵素にした3つの酵素の連携によって反応が行なわれています。結果的には、二酸化炭素、NADH、アセチルCoAが生成します。この段階がクエン酸回路の入り口ですから、ビタミンB1が欠乏すると、この酵素反応が進行しにくくなり、病気になるわけです。アセチルCoAの構造を図に示しました。パントテン酸とよばれるビタミンとアデニンヌクレオチドの誘導体にアセチル基(CH3-C=O〜)を付加したものです。アセチルCoAは脂肪酸の代謝物でもあり、生体内のアセチル基の運搬中間体として重要です。アセチルCoAは大きな分子ですが、アセチル基(C2)を運ぶ担体です。次に、アセチル基はオキサロ酢酸(C4)と反応してクエン酸(C6)となります。クエン酸はα−ケトグルタル酸(C5)、スクシニルCoA(C4)となり、炭素数が減る分を二酸化炭素(CO2)として放出していきます。さらにオキサロ酢酸にもどる間に、ステップ@CDHでNADHを生成し、ステップFでFADH2を生成します。さらに、ステップEで、ATPの塩基がグアニンになっているグアノシン三リン酸−GTPをつくります。GTPはATPと同じく高エネルギーリン酸化合物ですから、ATPができたことと同じことになります。このようにして、クエン酸回路では、3つの大きな仕事をしています。
1. もともとはグルコースの持っていたH原子をNADHやFADH2として回収する(@CDEH)。
2. 二酸化炭素が放出する(@CD)。
3. GTPを生成する(E)。
電子伝達系と酸化的リン酸化のしくみ
クエン酸回路でできたNADHやFADH2はミトコンドリアの内膜に結合した電子伝達系酵素に運ばれて、電子伝達系に共役した酸化的リン酸化系によってATPに変換します。水素原子はどうして電子伝達系を通る間にエネルギーを生じるのでしょうか?水素(H)は元素の中でいちばん軽い単純な元素です。図のように、原子核に1個の陽子(プロトン)と電子1個をもっています。水素は簡単に電子とプロトン(H+)に解離します。電子はエネルギーレベルが高く、電子伝達系の成分を流れていく間にATPという化学エネルギーに形をかえて貯えられるのです。これを少し漫画的に示すと、図のようになります。
大きな岩を崖の上から落としたとしましょう。高いところにあるものは、位置エネルギーをもっていて、その岩が崖を落ちていくときには、そのエネルギーは運動エネルギーにかわります。その崖の途中に大きな歯車をおいておくと、岩が衝突したときに歯車が動き、大きな水の入った桶を持ち上げます。その水は必要に応じて水力で仕事ができますから、便利なエネルギー貯蔵形になります。ATPの化学エネルギーはまさしくこの形になるわけです。
図に電子伝達系の成分を示しました。電子伝達系酵素は大きく3つの成分からできています。それらは、NADH脱水素酵素複合体、b−c1複合体、チトクローム酸化酵素複合体です。間にCoQ10という化学物質とチトクロームcという小型のタンパク質が電子の受け渡し役として介在しています。NADHからの電子は直接NADH脱水素酵素複合体に入ります。一方、FADH2からの電子はCoQ10のところへ流れ込みます。これらの電子伝達系を電子が流れる間にプロトンはミトコンドリアの外膜と内膜との間の膜間区画の方へながれていき、ミトコンドリアの内膜にはプロトンの電気化学的勾配が形成されます。そのプロトンの電気化学的勾配を形成する箇所は全部で3箇所あります。NADHから電子が流れたときには、3箇所のプロトンの勾配をつくりますが、FADH2から場合には2箇所のプロトンの勾配をつくります。そのプロトンはミトコンドリアの内膜に結合したATP合成酵素の中を通って、ミトコンドリアのマトリックスへ戻ります。そのときにADPとPiからATPが合成されるのです(図)。ATP合成酵素は図のように、膜貫通型のH+輸送体とF1−ATPアーゼというATP合成酵素からできています。驚くことに、ATP合成酵素は先ほど漫画的に示したような歯車のような部分をもっていて、H+の流入を駆動力にしてATPを合成できるのです。このことから、NADHから電子が流れたときには、3ATPができ、FADH2から場合には2ATPできることになります。最後にチトクローム酸化酵素複合体のところで、マトリックスに戻ったプロトンは電子と一緒になり、酸素と反応して水(H2O)になり、グルコースが完全に酸化されたときできる水と二酸化炭素(クエン酸回路で生じる)の両方がそろうことになります。
ATP産生の計算
以上の議論から、ATP合成に関して次の結論が得られます。
NADH →3ATP
FADH2→2ATP
GTP →ATP
これをもとに、グルコースから酸素を積極的に利用した呼吸代謝で細胞内でいくつATPができるか計算してみましょう。
グルコース+2ADP+2Pi+2NAD+→2ピルビン酸+2ATP+2NADH+2H+
クエン酸回路でピルビン酸からできるものは
4NADH・・・・・4X3ATP=12ATP
FADH2・・・・・1X2ATP= 2ATP
GTP ・・・・・・・・・・・= ATP
───────────────────────
計15ATP
となります。したがって、グルコースからは2X15ATP=30ATPできますから、解糖系の2ATPとあわせて2ATP+30ATP=32ATP回収しました。しかし、グルコースからできるATPの数としてよく知られている数字38ATPとか36ATPにはまだ足りません。どこかで、数え忘れたATPがあるのですが、どこにありますか?それは、解糖系でできた2NADHです。NADHは大きな分子ですから、細胞質のNADHは簡単にはミトコンドリアのマトリックスの中までは入れません。図に2つの往復輸送経路を示しています。1つはグリセロールリン酸シャトルとよばれる往復輸送系で、細胞質のNADHがミトコンドリアに入る場合があります。このときに、細胞質のNADHは細胞質にあるNAD依存性グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼのはたらきで、グリセロールリン酸になり、ミトコンドリアに入ります。次に、グリセロールリン酸はミトコンドリアにあるFAD依存性グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼのはたらきでFADH2になり、電子伝達系のCoQ10に流れ込みます。一方、リンゴ酸、アスパラギン酸シャトルでは、細胞質とミトコンドリアに存在するリンゴ酸デヒドロゲナーゼの働きで、細胞質のNADHはリンゴ酸に形をかえてミトコンドリアに入り、ミトコンドリアのリンゴ酸デヒドロゲナーゼの働きで、ミトコンドリアの中でまたNADHが生成します。このように、グリセロールリン酸シャトルでは、細胞質のNADHからは2ATPできますし、リンゴ酸、アスパラギン酸シャトルでは、細胞質のNADHからは3ATPできることになります。よって、グルコースからはあと2X2ATPもしくは2X3ATPを足す必要があり、グルコースからは36ATPもしくは38ATPできるという計算になります。細胞質のNADHをどちらの往復輸送系でミトコンドリアに入れるかは臓器によって違っているようです。昆虫の飛翔筋細胞のミトコンドリアにはグリセロールリン酸シャトルが多いとされていますし、動物の肝臓細胞のミトコンドリアには、リンゴ酸、アスパラギン酸シャトルが多いといわれています。
エネルギー効率
細胞がグルコースのもつエネルギーをATPとして貯えるときのエネルギー効率を計算してみましょう。
C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O+686 kcal
ATP→ADP+Pi+7.3 kcal
ですから、グルコース1モルから686kcalのエネルギーが放出され、1モルのATPから7.3 kcalのエネルギーが放出されます。グルコース1モルから最大38モルのATPができますから、エネルギー効率は
38x7.3/686x100(%)=40.4%
になります。ガソリン自動車のエネルギー効率は10%くらいですから、細胞のエネルギー効率は非常に高いことがわかります。しかも、細胞は低い温度でこのような高いエネルギー効率で仕事ができるわけです。細胞のことを等温化学エンジンであると表現するのも的を得た表現でしょう。
教科書に沿って話します。
1.糖質の消化と吸収
デンプンはだ液、すい液のαーアミラーゼによって二糖類のマルトースになり、マルトースは小腸粘膜のマルターゼによって消化サレテ、グルコースとなって吸収される。二糖類のショ糖(スクロース)は小腸粘膜のスクラーゼによって、グルコースとフルクトースとなって吸収される。二糖類の乳糖(ラクトース)は小腸粘膜のラクターゼによって、ガラクトースとグルコースとなって吸収される。乳幼児におけるガラクトースの必要性はわかりますね!また、ラクターゼは乳児期には活性が高いのに、大人になるとほとんど存在しなくなります。牛乳を飲むと下痢しやすい人はラクターゼが欠損した人です。単糖のグルコース、ガラクトース、フルクトースのいずれも水に溶けやすい分子ですから、小腸粘膜を通過するのはむずかしく、特殊な膜の能動輸送タンパク質のはたらきで吸収されます。
2.吸収された糖の行く方
図7−2のようにグルコースは小腸から吸収されたのち、門脈を経て、肝臓に入る。血清中のグルコース濃度は5.5 mMにもなるが、肝臓のグルコース濃度はそれ以上にも成り、肝臓のグルコキナーゼ(Km=10 mM)がはたらいて、解糖系へ流れ込む。TCAサイクルに流れ込みATP合成へつながる。一方、肝臓で、アセチル-S-CoAから脂肪酸へと合成されることもある。肝臓ではぐリコーゲンと成ってエネルギーの貯えとなることもある。グルコースは血液を介して筋肉や脂肪細胞に運ばれ図7−2のように代謝される。この時、筋肉では、グリコーゲンとなり貯えられる経路、TCAサイクルに流れ込み、ATP合成に繋がる経路、解糖系で乳酸となって筋肉疲労物質となることもある。脂肪細胞では、グルコースから脂肪酸とグリセロールがつくられて、トリグリセリドがつくれれる。
3.グルコースの代謝
4.フルクトース、ガラクトースの代謝
5.ウロン酸経路
6.糖類の栄養的特徴
1.脂質の代謝
1)脂肪酸の合成
マロン酸の誘導体-マロニル-S-CoAがこの代謝の重要なポイント!
アセチル-S-CoA+HCO3-+ H+ + ATP → マロニル-S-CoA+ADP+Pi
アセチル-S-CoAカルボキシラーゼ
でマロニル-S-CoAがつくられる。マロニル-S-CoはACPマロニルトランスフェラーゼのはたらきでマロニル-S-ACPとなる。
マロニル-S-CoA+ACP-SH → マロニル-S-ACP+CoA-SH
次にβーケトアシルACPシンターゼがはたらいてアセトアセチル-S-ACPがつくられる。
後は図8−1のようにβー酸化系の逆のように、反応が進行して炭素が2個多い脂肪酸へとなっていく。この時に生体内還元剤としてNADPHを使うところに注意!
2)脂肪酸の酸化
3)トリアシルグリセロールの合成
4)リン脂質の合成
5)コレステロールの合成
6)胆汁酸の生成
7)リポタンパク質の代謝
8)脂質の代謝異常
2.脂質の栄養
15蛋白質の代謝と栄養
15三大栄養素の代謝の相互関係
ザベストプロテイン賞の発表!5人選びました!来なかった人には権利がありませんよ!
まず、p.165の図13−1の三大栄養素の代謝的関係をみてください。ここで考えたいのは、我々は三大栄養素を糖質63%、脂質25%、タンパク質12%のエネルギー比率でとることの科学的根拠についてです。糖質は解糖系、TCAサイクルを経て、できたNADHやFADH2が電子伝達系に流れ、多量のATPがつくれらます。脂質の成分−脂肪酸もβ酸化系によってできたアセチルCoAはTCAサイクルに流れ込み、同様にATPができます。しかし、脂肪酸は直接的に糖質になることはできません。ピルビン酸からアセチルCoAになるところともう1つアセチルCoAがオキサロ酢酸と縮合してクエン酸となり、TCAサイクルに流れ込むところの反応が不可逆反応だからです。これに対して糖質は簡単に脂肪酸へと変換され、脂質になってしまいます。また、アミノ酸への変換も可能です。言い換えれば、糖質は即エネルギーとなり、かつ脂質にもなりやすい一番柔軟性のある栄養素であるのです。このあたりの話しを明日最後にやってみます。
核酸の化学と機能から出題です。但し、中間テストの復習ができてるかをチェックする問題は出しますよ!

はわかってほしいですよね!すなわち、5'-末端と3'-末端の違いがどうなってるのかわかるようになってほしいですね!DNA複製のリーデイング鎖とラギング鎖のことも分かって下さいね!岡崎フラグメントて何?
遺伝暗号の1つ1つの意義を吟味するのも大切!何故、開始暗号は1つなの?左から一列目にはどんなアミノ酸が並べられているの?とか。
遺伝暗号をどのようにして間違いなくタンパク質合成に導くのか?その機構を聞こうかな(笑い)?何が大事なはたらきをしてる?そう、tRNAのアンチコドンだよね。アンチコドンとは何かを知ってるといいね!
酵素のところ、Do Enzyme!は大切だね。酵素の分類ができるか?反応を見たら酸化還元酵素1番とかわかること。化学反応式をみて酵素の名前を言えるか?例えば、ホスホエノールピルビン酸+ADP→ピルビン酸+ATPはピルビン酸キナーゼと命名してるけれど、右から左の反応に名前をつけてますね!こんなの珍しいの!ふつう、左から右の反応に名前をつけるのがふつうなんだ!ふつうでないのには、Do Enzyme!で明示するようにしておこう!今入力!
酵素のところでKmのことはよく知っていてほしいね!ヘキソキナーゼとグルコキナーゼではどちらが基質グルコースに対するKm大きい?それはどんな意味がある?覚えてオキナーゼ(笑)!
解糖系のポイントはどんなところにあるか?ATPを2回使って何をするのか?その結果としてグルコース一分子からいくつのATPができるのか?しかし、どうしてもうけが出たのだろうか?グリセルアルデヒド3ーリン酸デヒドロゲナーゼのところでNADHができていることは注意!そのNADHは元のNAD+にもどらないといけないけど、そうしてくれる酵素があり、それはなんて言う酵素?解糖系では酸素は要らない!その酵素と共役してる限り、酸素なしで反応は進行する。ただし、乳酸がたまって筋肉は疲れるけれど。答えを言ってるのと同じことだね。
TCAサイクル−この意味は何だろう?そうCO2を出すこと!どの段階?炭素の数見りゃだれでもわかる。炭素数が1つ減るのはCO2以外にないもんね。あと1つNADHまたはFADH2ができる!これがエネルギーの元!電子伝達系に行けば、もうけが出るよ!NADHからいくつATPできる?FADH2からいくつATPできる?よく理解しててね!これが基本中の基本!さあ、みんなピルビン酸からいくつATPできる?アセチル-S-CoAからはいくつ?この基本さえ知ってれば鬼に金棒!原は感激!グルコースからではいくつATPができる?38もよし、36もよし!どうして?それを知るには往復輸送系のことがわからないとね!でもミトコンドリアの外のことを考えなければならないのはどうして?もう一度言おう!グリセルアルデヒド3ーリン酸デヒドロゲナーゼのところでNADHができていることは注意!TCAサイクルで酸素は使ってない!でも、酸素がないと廻らないようになっている!どうして?
脂肪酸のβ酸化−計算できてほしいね!C14:0 C16:0 C18:0 C20:0どれがきてもATP計算できるように!
脂肪酸の合成−どんな工夫してる?(?)ケーキを思い出した人すごい!そのケーキ食べると太るかな?
三大栄養素のエネルギー比率はわかる?何故糖質はそんなに多くていいの?そのわけが知りたい!それを生化学で説明できたらすごい!代謝経路を見て説明できるように!タンパク質はどうして比率小さいの?脂質も糖質にくらべれば小さい!どうして?
こんなに手のうちを明かしていいのか?いやいやこれくらいではびくともしない基礎生化学山!
皆!、打倒基礎生化学山!八月場所の番付け(試験結果)をお楽しみに!Good
Luck! Every Students! I would not like to meet all of you again!