教えてくれたのは
1977年東京大学農学部農業経済学科卒業後、農林水産省入省。食糧庁、食品流通局等において食品産業行政に携わる。この間2年間パリ国立農学院留学。1997年から同省農林水産政策研究所で食品産業に関する研究に従事。博士(農学)を千葉大学にて取得。2016年、中村学園大学流通科学部教授。2017年4月、学科新設と同時に現職。研究分野は食料経済学、フードシステム。
- 外食が減り、家で食事する機会が増えた影響が、食品産業のいたる所に波及しました。
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外食の機会が減り、食材を購入して家で調理する「内食」やテイクアウトやデリバリーなどが大幅に増加しました。それにより食品製造業では飲食店向け業務用商品が売れなくなる一方、個人向け商品の売上げは増加しました。また、内食需要を取り込んだ食品スーパー等の小売業の売上げは好調でした。食品卸売業でも小売向け商品を手掛けている所はそれなりの売上を維持しましたが、外食向けの業務用が主体の企業は厳しい状況に。状況が落ちつき、食品産業が行動制限の必要がないコロナ禍前の状態に戻ることを期待したいところです。
- コロナ禍で落ち込んだ世界経済が回復したことや原油高、円安などが根底にあります。
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よく言われるのが、ロシアのウクライナ侵攻により世界有数の小麦輸出国であるウクライナの農産物輸出の急減です。実は、それ以前からの問題として、コロナ禍で落ち込んだ世界経済が持ち直したことによる需要の回復、原油高による物流や包装資材等のコスト上昇、さらには円安が関与しています。2022年春に一旦食料品が値上がりしましたが、ウクライナ情勢の影響が出たのは秋以降の値上げでしょう。小麦については、世界有数の輸出国であるウクライナの輸出減少により、国際価格は一時急騰しました。しかし、あまり報道されていませんが、小麦の国際価格、そして日本の買付価格は、2022年6月以降低下しています。
- 日本は多くの食料品や飼料などを輸入に頼っているので、大幅な円安は食料品価格の値上げに直結します。
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景気回復によりアメリカが金利を上げてドルの需要が高まったのに対し、日銀は金利を当面上げない方針なので円の需要は減少。この金利の格差が大幅な円安をもたらしています。日本は小麦や大豆、肉類などの食料品や飼料の多くを輸入に頼っているため、円安は食料品価格の上昇に直結しやすいのです。日本も昔は食料自給率が高かったのですが、経済の成長に伴い豊かな食生活を多彩な食品の輸入で実現してきました。今回の値上げを食生活を見直す一つの機会にしていただければと思います。
- 高齢者を中心に日常的に食料品などの買い物に不便を感じている方で健康面も心配されます。
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買い物弱者とは、高齢化が進む中、個人商店の廃業や近くにスーパーがないといった理由で、食料品などの購入に苦労している方々のこと。65歳以上で車が使えず最寄りの店まで500m以上のケースが多く、全国で800万人を超えると推計されています。過疎地域だけでなく自動車利用が少なく互助関係が希薄な都市部にも存在するのです。買い物に困るだけでなく、偏った食事によって健康寿命に支障をきたす可能性が懸念されます。対策として移動スーパーやコミュニティバスなどが導入されている事例があり、さらなる推進が望まれます。