中村学園大学・中村学園大学短期大学部

自由・平等・博愛の国で 教育の自由とは何かを 学んだ1年間の海外研修。
短期大学部 幼児保育学科橋本 一雄 准教授
PROFILE立命館大学法学部卒業、法政大学大学院社会科学研究科修士課程修了、九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程単位修得退学。2013年4月中村学園大学短期大学部幼児保育学科着任。2019年4月から2020年3月までパリ第7大学客員研究員。本学では日本国憲法等の授業を担当している。
フランスに渡り、約1年間、海外研修を行った橋本准教授にフランスでの研究などについてお話を伺いました。
フランスの教育を通じて考えてきた「自由」の意味
中村学園では、5年以上勤務している教員が応募できる、海外研修制度があります。学生の頃からフランスの教育や憲法学について研究を行ってきた私は、2019年4月から2020年3月までの約1年間、フランスで研究活動を行ってきました。
 私を受け入れてくれたのは、パリ第7大学。フランス全体の約6,700万人の人口のうち210万人ほどを占めるパリは、日本の東京と同じく一極集中が課題となっています。フランスの首都であるパリに滞在した1年間で、研究のテーマであるフランスの移民問題と多文化共生について学びを深めることができました。特に滞在した1年間は、2018年から「黄色いベスト運動」が続き、4月にはノートルダム大聖堂の火災もありました。マクロン大統領が推進する年金制度改革に抗議するストライキも重なり、日本でもフランスのニュースが報道されることの多かった1年だったのではないかと思います。また、2020年に入ると新型コロナウイルス関連のニュースが報道されるようになり、日本でもアジア系の人々への差別に関する報道もあったと聞いています。こうした激動の1年を現地で体感できたことはフランス社会の現実について学びを深める機会になったと感じています。
移民国家が抱える多文化共生の問題
 昔から多くの移民を積極的に受け入れてきたフランスでは、移民やその子孫との共生が課題になってきました。さまざまな宗教の人が暮らしているわけですが、イスラム教徒の人口はEU加盟国の中で最も多いとされています。
 フランスは「自由・平等・博愛」の国。宗教についても、どの宗教も優遇せず公共の場にも持ち込ませないことによって、信仰の自由などの権利を保障する原則が憲法で定められています。このような政教分離の原則は「ライシテ」と呼ばれ、フランスでは150年近くの歴史を持つ憲法の原則です。このライシテとの関係で問題となったのが、公立学校でのスカーフ着用問題です。
フランスの大学で「日本学」を専攻している学生の日本への関心は想像以上に高く、「中村の学生との交流の機会も実現すれば」と願っています。
フランスでの研究成果を中村の学生たちの講義に活かし、憲法学を学ぶことの意味と“自由”とは何かについてもっと伝えていきたい。
2001年のアメリカ同時多発テロなどをきっかけに、世界の他の国々と同様、フランスでもイスラムフォビア(イスラム教やムスリムに対する憎悪や宗教的偏見のこと)が広がり、イスラム教徒の女性がかぶるスカーフの学校での着用を禁止すべきだという“スカーフ論争”が再燃しました。その結果、2004年に宗教的標章着用禁止法が制定され、公立学校ではスカーフの着用が禁止されることになったのです。もっとも、この2004年の法律から15年余りが経過している今日でも、フランスではムスリムの人々との多文化共生の方法について模索が続いています。海外研修で過ごした1年間は、フランスで同じテーマを研究している研究者の方々と意見交換をしたり、イスラム団体が独自に設置・運営しているイスラム系私立学校を調査したりと、研究のための充実した時間を過ごすことができました。
憲法学を学び、「自由」の意味を考える
今回の海外研修で私がこれまでのイメージを確かなものとしたのは、フランスにおける「自由」と日本における「自由」の捉え方の違いについてです。日本でも国立国会図書館法という法律の前文では、「真理がわれらを自由にする」という確信の下に国立国会図書館が設立されることが宣言されていますが、この宣言こそフランスの「自由」の捉え方に極めて近いものではないかと思います。つまり、「自由」とは市民(フランス語のcitoyen)になるために必要な知識や経験を経ることで初めて獲得し享受できるものであるというのがフランスの公教育の根底にある考え方であり、これは私たちが普段使っている「自由」という言葉の意味とは少しニュアンスが違うのではないかというのが私の現在の研究の到達点です。このような位相が生まれた背景について今後研究してみたいと考えています。
 私が授業を担当している日本国憲法にも多くの「自由」が規定されています。そのことの意味を学生の皆さんに伝えたいと授業に臨んでいますが、授業の準備をしたり、答案を採点したりする中で、私自身も憲法の学び方を日々再認識させられています。フランスでの研究の成果を活かし、より深く今後の授業でその意味を伝えていけたらと考えています。
本学では、学部の垣根を超えて複数の教員が合同で行う教養教育科目を開講。橋本准教授は、キャンプを通して学生が自然の厳しさや仲間の大切さを学ぶ『野外活動体験』などの科目も担当している。