中村学園大学・中村学園大学短期大学部

五千人の学生アンケートをデータ化。 幼稚園教育実習の実態を探り、 業界全体で、実習の在り方を考える。
幼児保育学科松尾 智則 教授
PROFILE九州大学教育学部卒業、九州大学大学院教育学研究科修士課程修了、博士課程を中退し、文部省(現文部科学省)大臣官房調査統計企画課勤務を経て九州大学教育学部附属比較教育文化研究施設第二部門助手として勤務。平成3年4月に中村学園大学児童学科に着任、その後、短期大学部幼児保育学科へ異動。その間、付属壱岐幼稚園長、幼児保育学科主任を勤めた。
幼稚園の変革、実習の制度改革を目指し、幼稚園教育実習の研究に取り組む松尾智則教授に詳しいお話を伺いました。
先生の研究分野について教えてください。
 現在、メインテーマとして取り組んでいるのは「幼稚園教育実習に関する研究」です。私はもともと比較教育学(国際教育)が専門で、九州大学では高等教育の普及状態に関するデータ整理を行っていました。何事も必ず数値化して課題を見つけることが大切だという考えから、中村に赴任した際もデータに基づく指導で教育実習の充実を図りたいと思い、学生アンケートの分析を始めました。それが「幼稚園教育実習に関する意識調査」です。この報告書は本学の幼児保育学科の学生が幼稚園教育実習後に回答したアンケートを23年間分まとめたもので、学生の数にすると約5000人分という膨大なデータになります。
 長い時間をかけて23年間分のアンケートデータをまとめ、実習実態の変化を知ることはできましたが、これで終わりでは意味がない。そこで、ここからさらに幼児保育学科のプロジェクト研究として内容を深めたいと思い、この報告書を福岡県内の幼稚園実習対象の全園にフィードバック。他の園ではどう実践しているか、この分析結果をどう思うかについて幼稚園側のアンケートをまとめることにしました。現在は佐賀県と大分県の幼稚園でもアンケートデータを収集中です。
アンケートデータから読み取れた変化とは?
 最近の傾向として、現場を長時間任せてもらうという経験が実習の中で急激に減ってきていることがわかりました。現場が忙しくて学生に任せられないとか、ミスがあったら困るなど、さまざまな問題から「朝の会で絵本を読む」「歌の時間にピアノを弾く」といった、こまぎれの指導が増えてきているようです。しかし、実際の保育で大事なのは目先のことじゃなくて、一日の流れを考えながら子どもと接していくこと。例えば外で遊ぶ時も、次が昼寝の時間なら少し弱めの活動にしないと、子どもたちは落ち着きませんよね。こまぎれの実習ばかり経験していると、学生たちは「手遊びなどの保育技術を体験するのが実習だ」と誤った認識をしてしまい、就職してから「子どもが話を聞いてくれない」「こんなはずじゃなかった」と、現実とのギャップに悩んでしまう。早期離職につながらないよう、実習の内容について現場との話し合いが必要だと考えています。
幼児保育学科のプロジェクト研究資料。福岡・佐賀・大分の幼稚園に送付したアンケートは800を超える。
学生たちが胸に秘めた「幼稚園教諭・保育士になりたい」という小さな炎を、大事に育てていく教育と実習が必要なんです。
幼稚園教諭・保育士不足の問題を解消するために必要なこととは?
 最近ではよく待機児童や幼児教育義務化の問題が取り上げられ、幼稚園教諭・保育士が足りないという現状が問題視されていますが、今や18歳人口も減っており、昨年度の福岡県内の保育士養成校在学者数は前年度より200人も減少しています。大学・短大がしっかり機能していかないと幼稚園教諭・保育士不足という問題には対応できない状況に陥っているのです。
 できるだけ多くの学生を現場に送り出すためにも実習をどう考えるかはとても重要です。現場に魅力を感じ、やりがいのある仕事だと思ってもらうためには実習の制度も社会状況の変化に応じて変わらなければいけない。更に幼稚園教育要領の改訂等に対応して今後は幼稚園も大学も変革が必要なのではないかと感じています。
教育実習の前に行う保育実技指導風景。グループ別に学生の前で実演。
今後の目標について教えてください。
 これからは学科として、業界とより密接で具体的な関係を作っていくことを考えていかなければなりません。そのためにも、福岡県だけでなく九州全県のアンケートをまとめ、エビデンスをもとに業界全体で協議する第一歩にしたいと思っています。中村だけでなく、他の養成校とも共有する部分を作って、業界団体と養成校団体で今後の実習の在り方を考えていくことが大切。幼児教育を充実させるという同じ目標に向かって議論し、結果として学生たちが長く勤められるよりよい職場づくりができたらいいですね。
楽しいイラストを交えて、ポイントをわかりやすくまとめた実技指導資料。