中村学園大学・中村学園大学短期大学部

産学官連携のチームワークで 幼児から学生、高齢者まで 食塩過剰摂取の実態に迫る!
栄養科学部 栄養科学科安武 健一郎 准教授
PROFILE中村学園大学家政学部食物栄養学科管理栄養士専攻(現栄養科学部栄養科学科)卒業、平岡栄養士専門学校助手を経て、独立行政法人国立病院機構に管理栄養士として勤務。2008年福岡大学大学院にて博士(薬学)の学位取得、西九州大学講師・准教授を経て、2014年より中村学園大学栄養科学部准教授に着任。
今や国民の3人に1人が高血圧。その一因と言われる食塩の研究に取り組む安武健一郎准教授にお話を伺いました。
先生の研究分野について教えてください。
 大きなテーマ領域としては「食塩」について研究しています。世界的にみても日本人は塩をものすごく多く摂っている民族なんです。食塩の摂りすぎはいろいろな病気にかかわっていることがわかっており、国を挙げての課題解決に私たちも取り組んでいます。
 最初は中高年者の食塩をどうやって減らすかというところから考えていたのですが、中高年者だけに注目していてはたぶんもう治療が追いつかない。そこで、子どもに注目してみようと考え、幼児の尿を採取、食塩排泄量を解析するという調査を行いました。この調査では幼児保育学科の永渕先生にご協力いただき、100名を越える幼稚園児の尿から食塩排泄量をデータ化。季節ごとに3日間、1年間採取する調査で、季節や曜日によって食塩の摂取量に差があることがわかりました。また、日本人は幼児期から既に過剰に食塩を摂取している現状が明らかとなり、この研究が「やずや食と健康研究所」の2014年度助成研究において奨励賞を受賞しました。
食塩についての研究を始めたきっかけは?
 私はもともと管理栄養士として国立病院に勤務し、患者様の栄養管理やチーム医療に携わっていました。その頃はどちらかというと低栄養や肝臓病の栄養管理などに興味があったのですが、病院を離れて研究職に就くと、なかなかそういったテーマは実践できなくて。それならもっと身近なことをテーマにして研究を深めたいなと思っていた時に、高血圧専門のドクターに出会うことができ、その方との連携で現在に至っています。
研究って、レンガを積み上げるように調査を繰り返す地道な作業ですがそれを論文として形にまとめることで世の中の役に立っていくのかなと思える瞬間に喜びを感じますね。
現在、先生が研究で取り組んでいることは?
 幼児の尿中食塩排泄量については文科省の日本学術振興会から科学研究費をいただき、現在は福岡と東北の幼稚園児とその母親計700名を対象者として研究を続けています。
 その研究と並行して、大学生や中高年者など、さまざまな世代についても調査を進めています。中村学園大学の健康増進センターにはこの20年間の学生5000名分以上の血液や尿、食事のデータが残っており、そのデータから食塩にテーマを絞って解析したところ、1年生の約7割は食塩過剰摂取という結果が出ました。
 また、URとのコラボプロジェクトでは団地に住む高齢者の食塩摂取について調査。1ヶ月間、毎朝、尿を採取してもらい、デジタル検査機器で食塩の量が毎日何グラムだったか数値を認識してもらうグループと、グラム数は測らずに通常の生活をするグループに分かれて尿中食塩排泄量を計測したところ、食塩の量を毎朝チェックしたグループの方が毎日徐々に食塩摂取が減るという結果を得ました。食べている食塩を「見える化する」ことは減塩に有効だということがわかったんです。
UR都市機構との連携で、団地に住む高齢者にモニター調査を依頼。約30名の協力を得ることができた。
研究をする上で大変だと思うことは?
 私は子どもから高齢者まで「人」を対象に研究を行っていますが、調査の同意を得るにしても、やはり人との信頼構築が重要となってきます。日本ではまだまだ一般の方が研究被験者になるというハードルは高く、研究の入口での難しさを感じますね。
 そうした問題点についてはいろいろな方にサポートしていただいてクリアしています。幼児教育の先生方やURなどの企業、また、学生のマンパワーを借りたり。みなさんの支えがあってこその研究なので、研究連携メンバーのチームワークはとても大切ですね。
安武ゼミでは学生が主体となって企画運営する「健康栄養教室」を毎年実施している。
今後の目標について教えてください。
 まだまだやりたいこと、やらなくてはいけないことがたくさんあるので、同じテーマを持つ仲間を増やして、より大きなチームを組織できたらという希望はあります。やはり一人でやれることは限られているので、後進を育てて一緒にやっていけたら、研究のスピードもスケールも2倍、3倍になりますしね。それで結果的に、なにかしら人の健康に役立つようなパーツの一つになれたら、研究を行っている意義が出てくるのかもしれないと思います。
幼児への適塩指導では、ゼミ生による食育劇や手作りボードシアターでアプローチした。