中村学園大学・中村学園大学短期大学部

海外でも注目を集める 「流通チャネルの国際比較」研究で、 よりよい市場システムの構築を提案。
流通科学部 流通科学科徐 涛 准教授
PROFILE中国華東師範大学外国語学部卒業後、福岡大学大学院経済学研究科経済学専攻博士課程(前期)修了修士(経済学)取得、同大学院商学研究科商学専攻博士課程修了博士(商学)取得。日本流通学会、日本商業学会、日本ビジネス科学学会、中国物流学会所属。著書8本(共著含む)、学術論文・学会発表100本以上。
大手企業から公的機関まで、日本と中国を中心とした流通チャネルの研究に取り組む徐 涛准教授にお話を伺いました。
先生が研究されている「流通チャネルの国際比較」について教えてください。
 日本・中国・韓国を中心とした、東アジアの主要国の流通システムについて研究しています。中でも近年、主に私が取り上げているのは卸売流通の国際比較です。日本は1923年以降にできた中央卸売市場法に基づき、卸売市場を通して流通させることで、安定した食料品の供給を行っていますが、中国では企業が市場を経営しているので、営利的な目的が強くなり様々な問題が出てきています。そこで最近では、中国も日本のように公共性・公益性のある市場づくりをしようとしています。逆に日本では、市場経済の原理に基づいた、もっと流通段階の少ない流通を行おうと、市場外流通がどんどん拡大されています。卸売市場を通さず商社が大型小売チェーンストアと取引をしたり、全国に生産者の直売所が増えたりしていますよね。日本も中国も、お互いがそれぞれの良い部分を取り入れようとしている、そういった流通の国際比較について研究しています。今は電子商取引、いわゆるEコマースが非常に発展、急成長しており、猛スピードで業態の革新が進んでいるので、各国の流通を比較すると非常に面白いですよ。
流通に興味をもったきっかけは?
 中国の華東師範大学在籍中に、交換留学生として来日。戦後の廃墟から、日本はなぜこんな経済大国に発展してきたのか、その理由を探ってみたいと思い、最初は日本の貿易について勉強をしていました。しかし、勉強していくうちにだんだんと見えてきたのは貿易ではなく流通だったんですね。日本には資源もなく、広大な土地もなく、自然災害も多いのに経済はうまくまわっている。となると、世界の資源を国内に取り込み、生産して、世界中に送り出す、その効率的な流通システムこそが、実は経済発展に重要なのではないかということに気づき、流通の研究を始めるに至ったのです。
6月に行われた国際サミットフォーラムにスピーカーとして出席。研究発表は海外でも高評価を得ている。
社会に出る若い学生には理論だけじゃなくて市場がダイナミックに変化する様子を自分の目で見て、感じてほしいですね。
研究に関する取り組みについて教えてください。
 卸売市場の研究では、国内や海外の市場に足を運び、どういうトレンドになってきているのか、問題点はどこにあるのかを調査します。6月に中国で開催された大規模な国際シンポジウムでは講演ゲストとして招かれ、日本の市場について話をしたところ、非常に興味を持っていただけました。
 また、国際的な市場研究のほかにも、一般社団法人の日本養蜂協会からの依頼で、蜂蜜の生産と流通のコストについても調査研究しています。蜂蜜の流通は特殊なので、養蜂家に直接会って話を聞き、そこから分析するという、企業の流通調査とは違うやり方でアプローチしていきます。調査して報告書を提出するつもりが、商品包装やSNSを使った宣伝にまで話が発展して、いろいろなアドバイスを求められたりすることもありますね。
 企業や公的機関との研究を通じて広がった人脈は、毎年行われるゼミ生の海外訪問にも生かされています。学生達を連れて中国の大手乳製品メーカー・光明乳業や、上海のユニクロ旗艦店など、一流企業を訪問し、流通の現場を見学。学生にも海外の現実を自分の目で見てもらい、よりよい未来を作っていく上で何が必要なのか、学生自身に発見してもらえると、非常に喜びを感じますね。
日本養蜂協会の調査では実際に養蜂家にインタビュー。生産コストの実態を調査。
今後の目標について教えてください。
 流通の研究って本当に面白いんですよ。市場が生きているというか、常に変わっていくので、これからもどんどん新しいものを追いかけていきたいと思っています。
 大学院時代から数えると、論文、発表の数は100を越えました。これまでは現場に基づいた分析が多いのですが、そろそろ理論的・普遍的なものをまとめた本を書き上げてみたいですね。中村に来てちょうど10年。中村らしい、食に特化した流通チャネルの研究も深めていきたいと思っています。
毎年12月にゼミ生と海外研修へ。大手企業の訪問は学生にとっても貴重な機会に。