中村学園大学・中村学園大学短期大学部

テーマ
社会・環境と美味しい食事

教えてくれたのは

    木村 秀喜
    栄養科学部 栄養科学科木村 秀喜准教授

    新潟大学大学院医歯学総合研究科修了。博士(学術)。労働基準行政を経て下関短期大学栄養健康学科教授。2022年4月より現職。 水産庁長官任命 「お魚かたりべ」、「唐戸魚食塾」企画員。「唐戸魚食塾」は唐戸市場を拠点にボランティアとして下関の魚食文化の継承や魚食を取り入れた日本型食生活の普及啓発、地元市場の活性化等に取り組んでいる。「水産庁長官感謝状」の他、多くの表彰を受けている。

魚の美味しさにつながる要素は何ですか?
豊かな自然環境や発達した流通、魚を取り巻く方々の熱意、料理を楽しんで食べることなど、多くの要素があります。

まずは環境面です。日本周辺には寒流と暖流がぶつかる場所があり、陸から近い所にも深い海溝があったりと豊かな自然に恵まれています。次に流通が進展し、品質が確保されていること。魚に関する様々な場面に携わる人は熱意を持って取り組んでいます。各地域の特徴を生かした養殖魚も豊富です。日本の料理技術は文化と言ってよいでしょう。そして楽しんで食べること。これらがすべて揃い初めて美味しくいただけるのです。それは肉でも野菜でもお米でも同じです。

最近、魚を美味しくいただくのが難しくなってきたというのは本当ですか?
はい。さんま等の不漁がありますね。不明な点も多いのですが、気候変動や乱獲などが原因で漁獲量が減っています。

海の中でも温暖化が起き、魚の生息域が変わり様々な問題が起きています。また、水害対策で沿岸の河川や海岸線がコンクリートで覆われると、陸の栄養が海に届きません。痩せた海では海藻等も十分に育たず、結果として美味しい魚が減り、魚の流通量、消費量などにも影響が出ます。現在の消費者は、手間のかからない料理を選びがちです。骨がたくさんある魚の調理をおっくうに感じる人は少なくないでしょう。しかし、簡便な食ばかりを選択していると、食事のバリエーションが減ってしまいます。

食に時間と手間をかけられなくなったのはなぜでしょうか。
忙しいことが一因と考えられます。多忙であっても、食は大切にしたいですね。

家族で一緒に食事をすることで、食事の大切さや作法、実践を交えて様々な知識を育みます。便利な調理家電、レトルト食品が増えていますが、時短優先でなくひと手間かけて作る料理は、出来上がったときの喜びも大きいはずです。ライフスタイルが変化しても、食生活を大事にしたいですね。また、食育基本法、食品ロス削減推進法が施行されるなど、事業者だけでなく、私たち消費者も食に関する正しい知識を身に付け、主体的に行動することが求められています。

これからも美味しく食事をするためにはどのようにすればよいのでしょうか?
まずは食について知ること。そして食の時間を確保すること。丁寧に作った料理を楽しみましょう。

美味しい食は、自然の恵みや多くの人の手があってこそ成り立ちます。一方で、食は生産から廃棄までのすべてで二酸化炭素を排出し、食品ロスを生じさせます。こうした食の環境負荷についても知る必要があります。そして、食の時間を大切に。忙しい時も食の時間を確保し、一息つきましょう。時間があるときは少し手間をかけた料理を楽しみ、「美味しいね」と笑顔を交わしましょう。「頑張って○○しよう!」では続きません。食で笑顔になるために学び、工夫をしましょう。