中村学園大学・中村学園大学短期大学部

テーマ
子どもの理科教育

教えてくれたのは

    新井 しのぶ
    教育学部 児童幼児教育学科新井 しのぶ講師

    九州大学大学院システム生命科学府生命情報科学専攻博士学位取得。専門は分子生物学、幼児科学教育など。2016年4月より中村学園大学教育学部助手を務め、2022年4月より現職。子どもが自発的に学ぶための科学教育の活動および研究を行っている。2024年8月に行われた第18回アジア太平洋ギフテッド教育研究大会にてBest Poster Presentation Award(最優秀ポスター発表賞)を受賞。

小学校の理科教育における現状や課題を教えてください。
定められた知識・技能が主な学びの内容であり、特異な才能のある子どもがその能力を伸ばすのが難しいことが課題です。

小学校教育では、基本的に定められた学習の「ねらい」に沿って授業が進められ、最後にそのねらいに到達できたかを子どもたちが考察することになっています。しかし、子どもたちの中には理科が大好きで、すでに様々な知識を備えている子もいます。例えば、昆虫にとても詳しい子どもにとっては、小学校3年生の「昆虫の育ち」で学ぶ、卵→幼虫→さなぎ→成虫の順に育つ完全変態と、卵→幼虫→成虫の順に育つ不完全変態については既知であり、もっとその先、さなぎの中でどのようなことが起こっているかなどに興味があったりします。その子にとって理科は退屈なので授業中にぼんやりして、先生から学習意欲に乏しいと捉えられてしまうこともあります。子どもにとって、本来、学ぶことは楽しいものであり、「興味・関心のあることを知りたい・学びたい」という気持ちのままに突き進んでほしいです。そのためには探究的な教育活動が求められると考えます。

探究的な教育活動とはどのようなものでしょうか。
すでに答えがあることを学ぶだけでなく、子どもが自分の知識・技能を発揮して、自分で考え探究できる活動です。

すでに答えがあることを学ぶだけでなく、子どもが自分の知識や技能を発揮し、自ら考えて探究できる活動が必要だと考えます。実際に、そのような活動を展開している愛媛大学の「キッズアカデミア」に刺激を受け、「地域の子どもたちにもこのような体験をさせてあげたい」という思いから、同じ志を持つある公立小学校の校長先生とともに、2023年から福岡市東若久公民館にて科学教室「キッズアカデミア@東若久」をスタートさせました。そこでは、子どもたちの反応や発言に応じて臨機応変にカリキュラムを変更し、子どもたちの「知りたい・学びたい」という気持ちに寄り添った活動を行っています。子どもたちは、私が紹介した新たな情報を自身の知識と結びつけ、新たな仮説を立てるなど、大人のちょっとした手助けだけで、どんどん世界を広げています。

前出の科学教室で出会った事例とはどういうものでしょうか。
子どもたちはそれぞれ異なる興味や学び方を持っています。決められた授業のスタイルでは力を発揮しにくい子どもが、自分の好奇心を大切にできる環境では、驚くほど生き生きと学ぶ姿が見られました。

ある子どもの例では、普段の学校の授業では学習意欲に乏しいように見受けられましたが、科学教室では自分の問いを自由に投げかけながら、意欲的に取り組んでいました。例えば、松の種子の落下の動きを観察する実験を行った際、「環境が変わると、この動きも変わるのだろうか?」と疑問を持ち、さらに深く考え始めました。そこで、異なる条件で試してみたところ、新たな発見につながり、自分なりの結論を導き出したのです。 このように、子どもが主体的に学びを進められる場では、発想が豊かに広がり、自ら考える力が育まれます。こうした学びのあり方が、個々の才能を伸ばす鍵となるのではないでしょうか。このケーススタディは、子どもの多様な学び方を尊重することの大切さを示すものとして、国際的な学術の場でも評価されました。

これからどのような教育が目指されるべきでしょうか。
子どもが学ぶことを大人が決めるのではなく、子どもが学びたいと思ったことは自由に学べるような教育を実現していきたいです。

子どもは生まれながらにいろいろ知りたいと思っています。それは理科分野に限ったことではありません。しかし、大人が一方的にこれを学びなさいと狭めてしまうと、子どもが自分で学びたいことを探究できなくなってしまいます。教科書の中だけの知識・技能に限定せずに、子どもが学びたいと思ったことは自由に学べるような教育になっていくべきではないでしょうか。小学校では個別最適化の指導や自由進路学習なども進んできてはいますが、学校教育の中だけでは特異な才能を有する子どもが力を発揮できない場合もあります。ですので、保護者や身の回りの大人がそれに気づき、伸ばしていく環境を作っていくことも大事だと思います。