中村学園大学・中村学園大学短期大学部

テーマ
フードバリューチェーン

教えてくれたのは

    株田 文博
    栄養科学部 フード・マネジメント学科株田 文博教授

    東京大学卒業後、農林水産省入省。英国留学、イタリア大使館、国際機関、国土交通省、農林水産政策研究所、政策研究大学院大学等を経て2019年4月から現職。博士(農学:九州大学)。専門はフードシステム学、産業連関分析。授業では「組織行動とリーダーシップ」「マネジメント・コミュニケーション」などを担当。福岡県農林水産業振興審議会委員(会長代理、地域振興部会長)、グローバル・フードバリューチェーン(GFVC)推進官民協議会メンバー(学識経験者)。

『フードバリューチェーン』とは、
どういう意味ですか?
食(フード)を基軸とする
付加価値(バリュー)の連鎖(チェーン)のことです。

食は、農水産物の生産から、食品の製造・加工、流通、消費まで、多くの方々の手を経て、私たち消費者の手元に届きます。フードバリューチェーンという言葉には、このフードチェーン全体でより大きな付加価値を生み出し、フードチェーンを構成する生産者、製造業者、流通業者、飲食業者、消費者それぞれに、より大きな付加価値をもたらしたいという思いが込められているのです。

食の『付加価値化』について、
事例を教えてください。
さつまいもからスイーツのような焼き芋、
そしてテーマパークへ--。
地域経済への付加価値波及効果も広がっています。

スーパーの店頭で販売される『さつまいも』を事例に考えてみましょう。多くの方の知恵と技術が結集し、単価の安いさつまいもからスイーツのような焼き芋への付加価値化が実現しました。 まず、原料となる芋の段階で、九州沖縄農業研究センターが、糖度の高い『紅はるか』という品種を開発。その芋を一年中安定供給できるよう、JAなめがたしおさいでは、収穫後はキュアリング処理(温度32℃・湿度90%以上の部屋で4日間保管)で飛躍的に貯蔵性を高めてから、長期間熟成させています。また、最高の焼き芋を作るには、加熱の温度と時間を細かく制御する必要があります。茨城県庁の研究者と技術者がその実証研究を行い、食品加工機械メーカーが火を使用できない店内でも美味しく焼きあがる遠赤外線オーブンを開発しました。 ここまでは食べる『付加価値化』の話ですが、今後さらに可能性が広がると考えるのは、食の体験型テーマパークです。大学芋の圧倒的な国内シェアを誇る白ハト食品工業は、さつまいもの体験型テーマパーク『らぽっぽ なめがたファーマーズヴィレッジ』をオープン。観光空白地帯だった茨城県行方市が、家族で一日中飽きることなく楽しめるフードツーリズムの目的地へと変貌し、地域経済への付加価値波及効果が期待されています。

『フードバリューチェーン』と
『食品ロス』の関わりを教えてください。
異なる企業が協働し、食品ロスを減少させながら
新たな付加価値を創出した事例もあります。

食品ロスというと、家庭での食べ残しや過剰除去を連想しがちですが、ここではフードビジネスにおける食品ロス対策の例で考えてみましょう。明太子メーカーの『ふくや』では、辛子明太子を製造する際に、唐辛子のフレッシュ感にとことんこだわるため、明太子を漬け込む調味液をその都度取り替えているそうです。もったいない運命にあったこの調味液を、スプレードライ製法で『明太子パウダー』に変身させ、豆菓子メーカーの『いなだ豆』とのコラボにより、博多の新たなお菓子「すずめの卵」を誕生させました。関係者の協働により、食品ロスを減少させるとともに、新たな付加価値を創出したフードバリューチェーンの好例です。