教えてくれたのは

宮崎大学大学院農学研究科修了。九州大学大学院生物資源環境科学府博士後期課程単位取得満期退学、博士(農学)。2001年4月より中村学園大学短期大学部食物栄養科(現食物栄養学科)にて常勤助手、助手、助教、講師を経て2017年4月より中村学園大学栄養科学部フード・マネジメント学科講師。2022年4月より現職。研究分野は、食品衛生。本学では、「微生物学」「食品衛生学」等担当。2020年度より、「福岡市食の安全安心推進協議会」委員も務める。
- 有害な細菌やウイルス、化学物質、寄生虫などに汚染された飲食物、有毒なふぐや毒キノコなどを食べたことが原因で生じる健康障害です。
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有害な細菌、ウイルス、化学物資、寄生虫などに汚染された飲食物、有毒なふぐや毒キノコなどを食べたことが原因で、下痢、腹痛、嘔吐等が起こることを「食中毒」といいます。一年を通じ発生しており、国内では年間1000件程度発生し、患者数は約6千人~2万人です。これは病院で食中毒と診断された数なので、実際はもっと多く発生していると考えられています。
- 鶏肉の汚染率が高いカンピロバクター(細菌)が挙げられます。この細菌は熱に弱いので加熱すれば食中毒を防げます。
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食中毒の原因で特に多いのは、細菌のカンピロバクター、ノロウイルス、寄生虫のアニサキスです。カンピロバクターは、家畜や家禽などの腸内にいて、中でも鶏には高い確率で存在し、鶏肉はカンピロバクターの汚染率が高いです。この細菌による食中毒の多くは、生や加熱不足の鶏肉を食べたことによるものです。カンピロバクターは熱に弱いのでしっかり加熱すること。加熱の目安は肉の中心温度が75℃で1分以上で内部までしっかり熱を通す必要があります。通常、細菌による食中毒は食品中で食中毒菌が増えて、それを食べることで発症することが多いのですが、カンピロバクターは少ない菌数でも起こります。新鮮な鶏肉だから生でも大丈夫ということは一切ありません。また、発症まで2日~7日と潜伏期間が長いことも特徴です。
- アニサキスの場合は新鮮な魚を選び、速やかに内臓を取り除き内臓を生で食べないようにしましょう。ノロウイルスの場合はかきなど二枚貝の加熱、適切な手洗い、煮沸や塩素消毒を行いましょう。
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アニサキス幼虫はサバやサンマ、イカなどの魚介類の内臓にいて、鮮度が落ちてくると筋肉に移動します。予防のポイントは、新鮮な魚を選ぶこと、内臓はすぐに取り除くこと、内臓を生で食べないこと、目視で確認(約2cm~3cmの白色で糸状)して取り除くこと、加熱(60℃で1分、70℃以上)や冷凍(-20℃で24時間)です。また、酢やワサビなどの調味料では死なないことも知っておく必要があります。ノロウイルスの場合、加熱不十分な二枚貝(特に生かき)を食べたことによる食中毒が多かったのですが、近年、調理者の手指などを介して二次汚染された食品が原因となる場合が増えています。ノロウイルスは感染力が強く少量のウイルスで感染して食中毒を起こします。生食用以外のかきなど二枚貝はしっかり加熱(中心温度85℃~90℃で1分半)すること、食品への二次汚染防止のため、適切な手洗い(トイレ後、調理前など)、調理器具の消毒、下痢症状のある人は調理を行わないことなどが大切です。また、感染者の便や嘔吐物などから二次感染を起こすこともあります。ノロウイルスにはアルコール消毒が効きませんので、塩素消毒や煮沸消毒が有効です。
- 食中毒について正しい知識を持ち、食中毒予防の三原則を守ること、また、これから新たに開発される食品の安全性についても意識を向けていきたいものです。
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食品の購入から保存、調理、食事、後片付けまで、それぞれのポイントで食中毒予防の三原則、食品に細菌を「つけない(清潔・洗浄)」、食品中で細菌を「増やさない(迅速・冷却)」、食品中や調理器具などに付着した細菌を「やっつける(加熱・殺菌)」を守りましょう。食中毒について正しい知識を持ち、食中毒予防を心がけることは、おのずと食品の安全性について知ることになります。卵の賞味期限は、生で食べられる期間を表しているため賞味期限を多少過ぎても加熱すれば食べても問題がない等、正しい知識を身に付ければ食品ロスの削減にもつながるはずです。またフードテック分野の研究・開発が進むにつれ、これまでに食経験のない新しい食品が開発されるとともに、その安全性の発信やその内容を理解する力が大切になってきます。安全性を示す側(提供する側)は的確に説明する力を、安全性を示される側(消費者)は、情報を正しく理解する力を高めていく必要があるでしょう。