中村学園大学・中村学園大学短期大学部

分子栄養学

私たちの体は、食事を摂取することにより、栄養を得ているのは周知の事実で、必要以上にとりすぎた場合は過剰症、足りない場合は欠乏症として知られてきています。しかし、過度な摂取の場合も、短期間、長期間の摂取にあわせて、生体は様々な生体応答をします。私たちが、栄養を理解したうえで、効率よく摂取したいと考えることは当り前のことで、これは人類の長年の夢です。そのため、分子と栄養学は切っても切り離せない関係にあります。栄養を分子レベルで理解利用とすることは当然ですが、分子栄養学というのは近年の造語であると言われています。分子栄養学とは、栄養を単に分子レベルから解析するだけでなく、食事全体として理解し、応用までつなげる材料供給することです。近年、アメリカでも、分子栄養学は、オーソモレキュラー栄養医学と称され、注目されています。

研究員

研究内容

1.はじめに

私たちの体は、食事を摂取することにより、栄養を得ているのは周知の事実で、必要以上にとりすぎた場合は過剰症、足りない場合は欠乏症として知られてきています。しかし、過度な摂取の場合も、短期間、長期間の摂取にあわせて、生体は様々な生体応答をします。私たちが、栄養を理解したうえで、効率よく摂取したいと考えることは当り前のことで、これは人類の長年の夢です。そのため、分子と栄養学は切っても切り離せない関係にあります。栄養を分子レベルで理解利用とすることは当然ですが、分子栄養学というのは近年の造語であると言われています。分子栄養学とは、栄養を単に分子レベルから解析するだけでなく、食事全体として理解し、応用までつなげる材料供給することです。近年、アメリカでも、分子栄養学は、オーソモレキュラー栄養医学と称され、注目されています。

2.研究領域の設定

本部門は、食事や食材、さらには食品に含まれている物質が、どのようにして体内に影響を与えるかを分子レベルで明らかにするのを目標とします。特に、日本型薬膳に関する食材・食品に注力して研究を行い、その効果を明らかにしていきます。日本型薬膳とは、日本型の「一汁三菜」のスタイルをもとにして、日本人の味覚や体質に合わるといった、和食や洋風にアレンジされた「薬膳」です。一方、薬膳は中医学(中国の伝統医学)の「薬食同源」の考えに基づき、主に漢方薬を使った中国料理であるため、日本型薬膳は、日本の伝統食をベースにした食事といえます。
本部門では、従来の栄養学スタイルである「食品の中の成分を細かく分離し、その効果の理解を進めるという研究スタイルに加え、複数の食材の組み合わせと調理法をも含有する複雑性をもった「食事」の影響の解析も試みます。この複雑性の解析により、研究成果は、他部門と有機的に連結しうるようになり、管理栄養士の新しい学術基盤を供します。将来は、食事設計にまで広げ、中村学園独自の管理栄養士の活躍できる場面を増やしていきたいと考えています。

3.研究テーマ

栄養は、これまで食物の栄養素に基づいた研究が基盤となって理解されています。これでは、必要なだけの栄養素量がわかっていても、現実的な食事において摂取した栄養素が身体でどのように反応しているか、さらには食品の複合体として摂取した食事の場合、栄養素群がどのような反応をしているかは、十分に解明されていません。そこで、私たちは、分子からの視点で栄養素を始め、栄養素のミクスチャーである食品、さらには食品のミクスチャーである食事の影響を調べることを目標とします。この分子的な研究は、生体応答部門との所内共同研究により、生体での機能評価に発展していくつもりです。

分子栄養学部門では、以下の3点に絞って、研究を進めていく予定にしています。1つ目は、中医学の観点からみた潤腸通便作用のある日本型薬膳の食材に多く含まれ、長い間、排便を促進すると考えられていた食物繊維の積極的な機能を調べます。食物繊維は、大腸にて腸内細菌により発酵され、代謝産物として塩基配列に依存しない遺伝子発現(エピジェネティクス)に影響を与える分子が生み出すことが分かってきています。もちろん、食物繊維は、これの分子だけでなく、他分子産生に寄与しています。それら分子機構をさらに深く理解するため、既報の機能以外の機能を持たないか調べていき、食物繊維の積極的な機能についてアプローチします。それらの結果を基にして、複雑性を有する日本型薬膳の食材、そして食事のレベルでエピジェネティクスに影響を与えていないか検討していきます。

年齢と共に現れてくる病気は、いくつもありますが、その1つであるアルツハイマー病は不可逆的な進行性の脳疾患で、記憶や思考能力がゆっくりと障害される病気です。アルツハイマー病と食品摂取との関係性が近年報告されています。中医学から見た老化の原因は、腎(腎臓ではなく、生殖器官やホルモン系、カルシウム代謝、自律神経系など幅広い機能を指す)の精気不足と脾腎(脾は、胃と共に 消化吸収に関する働きを担う)の虚弱の2点があげられます。老化の予防には、成長と発育をつかさどる生命エネルギーを蓄える「腎」が深く関係しているとされています。そのため、2つ目は、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドーシス(タンパク質異常凝集体)に影響を与える食品成物について(中医学の腎経とかかわりのある薬膳食材を始めとし)、試験内で凝集体形成に与える効果や細胞の生存に関わる効果を検討します。なお、凝集作用に与える効果が、食品加工の仕方により機能が変化するかについても調べるだけでなく、食品の組み合わせで変化するか否かも検討し、複雑な分子が絡まりあって、結果として影響を与えうるかについて総合的に検討していきます。さらに、モデル動物を使い、その効果を調べようとしています。アルツハイマー病に限らず、生活習慣病は、若年の時には発症せずに、壮年になるに従い発症し、発症後は食事制限などしなければならなくなります。もし発症前に、特有の食品やバランスの取れた食品をとることで、発症のタイミングを遅らせることができれば、管理栄養士の新たな社会貢献につながると共に、多くの人の幸せに貢献可能です。

3つ目は、長期間にわたる「食の効果」を遺伝子発現から考えると、エピジェネティクスは重要な制御であるため、基礎研究ですが、その機構に関する研究を行う予定にしています。

このように、私たちは、これまで体に良いとされてきた日本型薬膳などを摂取することにより、どのような変化(代謝物変化、遺伝子発現など)が生じるかを調べていき、未病の段階で対応できる方法はないかを探していきたいと考えています。